「1000つぶ ちょこれーと」

 まことくんは、かずやくんと、甘えんほうネコのまんじゅうと、甘いチョコレートが大好きな男の子です。
 ある日まことくんは、ちゅうこのこんぴゅーたーを手に入れました。消費税込み30,000円ちょうどのお値打ち価格の掘り出し物のこんぴゅーたーでした。さいしんしきのこんぴゅーたーと比べると、いんすとーる出来るソフトも、めもりーっていう勉強したものを覚える力も、計算する早さもぜんぜんダメだよーって、かずやくんは言いましたが、
 「いいんだ。ぼくはこのこんぴゅーたーが気に入ったからこれにするんだ」
 と、言って、溜めていたへそくりをほとんど出して、
 「これください」
 と、黄色いエプロンをつけていた店員さんにおねがいしました。
 「はいっ、かしこまりましたっ」
 店員さんは笑顔で返事をすると、こんぴゅーたーを包んでくれて、
 「30,000円になります」
 と、言いました。
 「お持ち帰りになりますか?それとも宅配便にしますか?」
 「宅配便のほうでお願いします」
 「はい、かしこまりました。では、すぐにまことくんのお宅に配達させていただきます。ありがとうございました」
 お店から、お家に帰る帰り道、まことくんは済まなそうに口を開きました。
 「………かずやくん、ごめんね。ほんとうはぼく、かずやくんに何か買ってあげようと思ってお店に来たんだ。でも、ぼく、自分のだけ買っちゃたよ…ごめんね」
 「いいよ。気にすんなよ。良かったじゃん。まことは前から自分のこんぴゅーたー欲しいって言ってたじゃん。良かったじゃん。オレも嬉しいよ」
 かずやくんはとても優しい男の子です。
 「オレ、ぱそこんのこと、まことよりいっぱい知ってるから、いっぱい教えてやるよ」
 「うんっ」
 まことくんはとっても嬉しくなって、つないだ手にもっと力をいれて、「ギューッッ」と、にぎりしめました。
 かずやくんは、そんなまことくんの気持ちに気付いたのか、やっぱり「ギューッッ」とにぎりかえしました。
 帰り道、いつもよく行くちょこれーとやさんでまことくんは3つぶちょこれーとを買いました。
 1つぶは自分で食べて2つぶはかずやくんにあげました。
 「あれ?オレの方が1つぶ多いよ」
 不思議そうにしているかずやくんに
 「お礼の気持ちだよ。かずやくん、大好き」
 まことくんは笑ってそう言いました。
 「……そっか。ありがとう。…んじゃ、オレも…」
 かずやくんもちょこれーとやさんで1つぶちょこれーとを買ってきました。
 まんまるの形をした、お店の中でいちばん大きくていちばんおいしいちょこれーとです。
 小さな紙の袋の中でチョコレートがカサカサと小さな音を立てました。
 「はい。やるよ」
 その時二人のとなりに1台の軽トラックが信号待ちで止まりました。荷台には、まことくんのパソコンが乗っけられていました。
 まことんくは紙袋の中のチョコレートを見て、
 「これ、ぼくに?」
 と、聞きました。辺りにちょこれーとの良い匂いが広がります。
 「うん。1つぶだけな。それ以上やったら、お前のお礼に失礼だからな。これはオレからのお礼だよ」
 キョロキョロッと辺りを見渡し、
 「今日のデートも楽しかったよ。ありがとう」
 と、小さな声で言いました。
 「………ありがとう」
 真っ赤になってまことくんが照れていると、信号は青に変わりました。
 トラックは2人を追い抜かして走って行きました。
 「あ、まことっ、アレ、お前のぱそこんじゃないか?」
 「あ、ほんとうだっっ。急ごうっかずやくんっっ!!」
 2人はちょこれーとカバンの中にしまうと、全速力で走り出しました。
 2人のお家はすぐそばです。
 2人より少しだけ早くついてしまった宅配便のお兄さんは、甘えんぼうネコのまんじゅうに、
 「ハラ、撫でてくれニャー」
 と、ゴロゴロ言いながらお腹を見せられ、あまりの可愛らしさに骨抜きにされていました。
 クリスマスイブのおやつの時間。
 こうして、まことくん専用のぱそこんがやってきたのです。


 ぱそこんは、長い眠りからようやく目覚めることが出来ました。
 どんどんと進化するこんぴゅーたー社会は、半年たてばより性能の高いぱそこんが生み出されてしまします。
 発売当初はほかのどのぱそこんより目立って、良い場所にかざってもらえたぱそこんも、すぐにあきられて忘れられてしまいます。
 中古のお店にいたぱそこんもそんな運命をたどった悲しいぱそこんでした。
 ぱそこんまにあの前のごしゅじんは、とにかく新しいモノがだいすきで、つぎからつぎへとぱそこんを乗り換えてしまう人でした。当時ざんしんなフォルムで一世を風靡した人気ぱそこんも、いの一番に買い込みました。しばらくは気に入って使っていたのですが、つぎつぎと、ばーじょんが上がり、追い付かなくてもう1台と買ったのがこのぱそこんです。しかし、そのあと、デザイン自体に大きな変化があって、結局は中古ぱそこん店に叩き売られてしまったのです。ほとんど使われなかったぱそこんは、それでも誰かが買ってくれるだろうと待ちました。
 ですが、ぱそこんは日々進化する厳しい世界だったのです。
 お店に来る人はみんなそのぱそこんの前を素通りします。
 とてもかなしくなりました。
 1年前にはみんなが欲しがった機種だったのに、今はもう、だれも欲しいなんて言ってくれないのです。泣きたくてもぱそこんは水気厳禁なので、涙をながすことも出来ません。
 いっそ何もかも感じないように、一切の電源をしゃだんしてもらえれば良かったのですが、本体のちゅうしんぶには、ちいさいちいさな、でも、強力な電池がないぞうされているので、意識を失うことも出来ません。
 ぱそこんは、長いじかんを商品棚のいちばん目立たないばしょですごさなくてはなりませんでした。ぱそこんのぷらいどは、ずたずたでした。
 だから、この日もどうせ自分はダメダメさ、と、あきらめの気分で目の前を通る人間達を見上げていました。
 その時でした。
 「いいんだ。ぼくはこのこんぴゅーたーが気に入ったからこれにするんだ」
 自分の耳を疑いました。
 でも、目の前には、自分を見詰める男の子がいます。
 「これください」
 まちがいなく、自分のことを指さしています。
 このお店に来て以来のレジの上に自分が置かれても、信じられない気分でした。
 でも、男の子はお財布の中からお金を取り出して自分を買ってくれたのでした。
 一番初めに、前のごしゅじんがかってくれたときよりは、はるかに少ないお金でしたが、自分はまた誰かのもとで画面をひからせたり、むずかしいけいさんがやれるのかと思うと、そんなことは本当にどうでも良いことでした。
 真っ白の軽トラックにのせられたとき、叫び出したいほどしあわせになきぶんになりました。
 『もういちど仕事ができるっっ。できるんだぁぁぁ』
 ぱそこんの言葉がわかる人がもしそばにいたら、どんなに嬉しかったかわかってあげられたにちがいありません。
 トラックは軽快にまちをはしります。
 荷台にしっかりと固定されたぱそこんは、ひさしぶりの街のけはいを感じています。
 この前は売られていく悲しい気持ちでいっぱいでしたが、こんどはうれしい気持ちでいっぱいです。
 となりにいた少しだけ背の高い男の子が、自分を買ってくれた男の子のことを「まこと」と呼んでいたのを思い出しました。
 『あたらしいごしゅじんさまはまことくんっていうんだなー。うれしいなぁ。うれしいなぁ。まことくんにお礼がしたいよ。ああ、まことくんはどんなお礼がうれしいのかなぁ』
 トラックが止まりました。
 信号が赤になったからです。
 辺りにはとてもおいしそうなちょこれーとの匂いがしています。
 「これ、ぼくに?」
 突然まことくんの声が聞こえてきたので、ぱそこんは固定されたろーぷがなかったから、とびあがってしまうほど、びっくりしてしまいました。どうやら、すぐそばにいるようです。もっとまことくんの声が聞きたいなと耳をすませていたら、まことくんをまことと呼んでいた男の子の声が聞こえてきました。
 「うん。1つぶだけな。それ以上やったら、お前のお礼に失礼だからな。これはオレからのお礼だよ」
 声の感じからして、とてもまことくんが好きなのが、ぱそこんにはわかりました。
 「今日のデートも楽しかったよ。ありがとう」
 小さな声も聞き逃さずに聞きました。
 「………ありがとう」 
 音の収集力を最大値にしていたぱそこんは、そのとてもとてもうれしそうなまことくんの声を最大限に聞いたのです。
 信号が青にかわって、車が走り出し、しばらくたっても、あのしあわせそうなまとこくんのこえが耳からはなれることはありませんでした。
 じぶんもそんなふうにまことくんを幸せな気分にしたいと堅くぱそこんは決心したのでありました。


 まことくんはかずやくんにていねいにぱそこんのことを教えてもらいながら、少しずつぱそこんのことを理解していきました。
 ぱそこん初心者のまことくんにとっては型番落ちのこの中古のこんぴゅーたーでも、やりたいことは全て出来ました。
 絵をかいたり、ことばをつづったり、家計簿をつくったり。他にもいろんなことができました。
 こんなことがしたいよ。と、かずやくんにそうだんすると、
 「こうすればよいよ」
 と。かずやくんはヒントを与えてくれます。
 けっしてかずやくんは全部を1人でしたりはしません。
 「これは、お前のぱそこんだ。だから、お前がやり方をおぼえてかなきゃダメだからな。オレが分かるこことはみんな教えてやるよ。まことはゆっくりおぼえて、応用出来るようになれよ」
 「うんっ」
 お店やさんでは自分のことをあまりよくは言ってくれなかったかずやくんですが、認めてくれているのがわかります。
 まことくんが少しずつ、自分のことを理解してくれていくのを感じるのもとてもうれしく思いました。
 そして、ネコのまんじゅうも、いつもぱそこんの画面の上の暖かいところで丸くなってゴロゴロしています。とうやら、彼が1番ぱそこんをきにいったようです。細い毛がキーボードの中にもぐりこんでくるのでくすぐったいのですが、かずやくんがこまめにそうじをしてくれました。
 みんな大事にぱそこんを使ってくれました。
 かずやくんは、ぱそこんに合ったしゅうへんききをそろえてくれました。
 今ではすきゃなーや、ぷりんたーや、ぺんたぶなどもそろって、さみしいとかんじることもなくなりました。
 ぱそこんはしあわせでした。
 そして、やがてまことくんにお礼がしたいと強く願うようになってきました。
 思い出すのは、自分がはじめてまことくんちに来た日のちょこれーとやさん前の、まことくんのしあわせそうな「ありがとう」の声と、おいしそうなちょこれーとの匂いです。
 自分も、あんなふうにまことくんをしあわせにしたいとはそこんは思うのでした。

 チャンスは思わぬ形でやってきました。
 いんたーねっとの世界から、ねっとの波を乗り継いで、まことくんのぱそこんのところにかうんたーの神様がやってきたのです。
 「おお、これは年代物のぱそこんじゃのう。最近買われたものだとねっとのうわさに聞いて来てみたんじゃが…しあわせそうにやっているのぅ」
 「はいっ。第2の機械生を楽しくしあわせにすごしております」
 「おう、それはよかったよかった。じゃあ、良かったついでになにか願いを叶えてやろう」
 願ってもないチャンスであります。ぱそこんは言いました。
 「ちょこれーとを出せる機能をつけて下さい。お願いします」
 神様はふぉっふぉっ…と、笑いながら言いました。
 「これは面白いことをお願いするぱそこんじゃのう。めもりーを上げたいとか、ばーじょんをアップしろとかそう言う願いじゃなくても良いのかね?」
 勿論、めもりー増設も、バージョンアップもぱそこんにとってはゆめではあります。
 でも、それよりもっと欲しかったのはちょこれーとを出す機能だったのです。
 「確かに神様のおっしゃるとおりです。でも、自分は今のままで十分です。今のごしゅじんさまは、自分の機能の古さは十分理解してくれています。でも、その上で自分を買ってくれました。だから、自分は自分のためではなく、ごしゅじんさまにとって1番喜んでもらえる機能が欲しいんです。だから神様おねがいです。自分にちょこれーとをだす機能をつけてください」
 ぱそこんは真剣に神様にそう言いました。
 神様は優しく言いました。
 「では、お前の願いを叶えてやろう。お前のしーでぃーろむのはいるばしょから、ちょこれーとがとびだす機能をわしがつけてやろう。ただし、無尽蔵に飛び出すのはどうよ?よって、カウンター制度をプラスしよう。いつかお前のごしゅじんがお前を使ってホームページを作る日がきたら、このあどれすで、むりょうはいふしているかうんたーをとりつけるがよい。ちなみにこれはわしが教えない限りあくせすふかのうのさいとである。お前も1度しかアクセス出来ないから、しっかりだうんろーどするがよい。お前のごしゅじんのホームページにだれかがアクセスするたび、おいしいちょこれーが飛び出すように細工しておく。よいな」 
 「はいっっ」
 「アクセスしてもらえるかどうかはお前達の裁量1つじゃ。よいさいとづくりにせいを出すんじゃぞ」
 そう言って、かうんたーの神様はねっとの海へと戻っていってしまいました。


 それからしばらくして。
 まことくんはかずやくんに教えて貰いながらホームページをたちあげました。
 とりつけてもいなかったかうんたーが、なぜかとっぷぺーじにあるのが不思議だと、かずやくんはずっと首をひねっていました。
 はじめてしぃーでぃーろむのぶぶんから
 「ぽんっっ!!」
 と、まんまるのおいしいちょこれーとが飛び出した時はかずやくんもまことくんもものすごくびっくりしてしまいました。
 まんじゅうは、短くて太いしっぽを逆立てて、まるてたぬきのようになってしまいました。
 「………これ、ちょこれーとだよ」
 まことくんが言います。
 「でも…なんで?」
 「……オレに聞くなよ…」
 かずやくんもなにがなんだかわかりません。
 でも、ちょこれーとはとてもよいにおいを部屋中に広げます。
 思わずまことくんはちょこれーとに手を伸ばしました。
 「ばかっ、やめとけよ」
 けいかいするかずやくんに、
 「だいじょうぶだよ。一口だけ」
 と、言って、まことくんは一口ちょこをたべました。
 「………だいじょうぶか?」
 心配そうに覗き込むかずやくんの前で、まことくんがいっぱいのえがおをひろげました。
 「かずやくんっ、すっごく……おいしいよっっ!!」
 口の中に入れるとトローっととけて、かかおの味が口いっぱいにひろがります。
 じょうひんで、やさしくて、すてきなあじのちょこれーとでした。
 それからも、かうんたーがひとつあがるたびに、1つぶ、ちょこれーとは飛び出し続けました。
 まことくんはうれしそうにしあわせそうにちょこれーとをたべました。
 まいにちせかいのどこかでまことくんのホームぺージに誰かがあくせすしてくれました。そのたびにぱそこんからおいしそうなちょこれーとが、
 「ぽんっっ!!」と飛び出しました。
 まことくんや、かずやくんや、まんじゅうや、ぱそこんは、ねっとで繋がったあくせすしてくれた誰かにとても感謝しました。
 ぼくらのホームページにあくせすしてくれてありがとう!!
 しあわせそうにまことくんは笑います。
 
 よいホームページをつくりたいと思っています。
 かうんたーが回るたんびにまことくんたちはしあわせなきもちになります。
 あくせすしてくれた人はおいしいちょこれーとをまことくんたちにぷれぜんとしてくれます。
 まことくんは、あくせすしてくれる皆がよろこんでくれるホームページをつくりたいと思うようになりました。
 自分がもらうちょこれーとのように、すてきなホームページをプレゼンしたいと考えるようになりました。
 かずやくんは一生懸命にそう語るまことくんのお手伝いができるのがとてもうれしいと思っています。まことくんと一緒にいられる時間がずいぶん長くなったのも、うれしい1つの要因です。
 まんじゅうは、いつでも稼動しているぱそこんの、上でいつでも眠っています。
 あたたかくてとても居心地のよいばしょのようです。
 そして、ぱそこんは今も大活躍しています。
 2003ねん3がつにはとうとう1000つぶめのちょこれーとが飛び出しました。
 うれしくて、うれしくて、その日はちょこれーとぱーてぃをかいさいしました。
 

 あ、誰かかまたあくせすしてくれたみたいです。
 まことくんちで、おいしいちょこれーとが
 「ぽんっっvv」
 と、飛び出しましたよ。

 ありがとう。みんな、ありがとう。

                       おしまい。
 
 

 

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