おまけssです。

 「よーっ、エイジーッッvv」
 人懐っこいヤツの声。オレは無視を決め込んだ。
 「エーイージーッッvv」
 にも拘らず、声の主は背後から駆け足でやってくる。
 「何だよー。ムシすんなよーっ」
 おどけた調子でオレの頭をグリグリ撫でる。
 「触わんなっ」
 「ケチーッ」
 ひょいっ、と、オレの顔を覗き込む。
 電気屋の二代目、高野恒一。キレ易い危ない男として恐れられているには不釣り合いな程の、良く見れば美人系。大抵は仕事してるか喧嘩してるかのどっちかのクセに、信じられないくらい面倒見の良い男。敵も多いが、味方はもっと多い。実は天然。お笑い好き。チャコールグレーのトレーナーと、くすんだ空色の作業ズボンと、腰道具とヘルメットが異常に似合う男。
 実は、犬みたいに人懐っこい男。
 カワイイっつーか、アホっつーか………。
 「エイジーっ、んな露骨に嫌がんなくてもいーだろーっ。触らせろよーっ」
 しつこくオレの頭を撫でようとする。
 「何でオレがお前に頭撫でらんなきゃなんねーんだよっっ!!」 
 「だって、可愛いんだモン」
 「言うなっつーのっ!!」
 「何で?イイじゃん。本当のことなんだから」
 「野郎にカワイイってーのは褒め言葉でもなんでもねーだろうがっっ!!」
 「そうか?」
 あ゛ーっっ!!
 「そうに決まってんだろっっ!!!もうっ、ウザイからよせってっ!!」
 本気で嫌がってんのにコウイチの野郎はお構い無しだ。ガーガー暴れてたら、最後はとうとう頭に抱き着かれてしまった。
 「やめっ!!よせってっっ!!」
 ジタバタするがガタイが違い過ぎる。
 「〜〜〜〜〜〜っっっ」
 モガモガしているオレにお構い無しに、コウイチが思う存分オレの頭を撫でまくった。
 「あ〜vvエイジってカワイイよねぇー……ちっちゃくてvv」
 「……てめえっっ!!!……ちっちゃいって言うなァァァッッッ!!!!!」
 オレには大嫌いな言葉が3つある。
 ちっちゃい・チビ・ミニミニだっ(怒)
 牛乳も魚も大嫌いだ。
 …だからなのか?……いや、そんなの迷信だ。
 しかし、事実は否応も無く………。
 体重56キロ。身長159センチ。
 ありえねぇ。絶対ありえねぇっ。…………ありえねぇぇぇっっっ………。
 「イテッ!!!」
 突然コウイチが声をあげてオレから離れた。
 キッと睨み付けてやると、トレーナーの首当たりを引っ張られてオレから引き剥がされているコウイチがいた。そして、その後ろには、コウイチのトレーナーを掴んで立っている男がいた。推定身長180以上。コウイチよりも2回りもデカイ身体の谷田雄太だ。オレよりも………いや、考えたく無い。見かけの割には腰の低い丁寧な男。コウイチの学生時代のときからの親友だそうで、高野電気工時で働く見習い電気工事士だ。
 「おはようございます。すんません。こいつがまた迷惑かけたみたいで……」
 「迷惑かけてないよ」
 「かけてんだろうがっ」
 「頭撫でただけだよ」
 「だから、それが迷惑だっつーの」
 「何で?」
 「…もう、いーから。長谷川さん、すんませんでした。…なんか、コイツ、長谷川さんがお気に入りでみたいで…」
 「エイジってさー、前飼ってた犬に良く似てんだよなぁー…イテッ!!何だよっっユウッ」
 「いい加減にしろっ。ほらっ、行くぞっ。ホントすんません…」
 谷田がコウイチをずるずると引っ張って行く。
 「やめろよーっ。トレーナー伸びるだろーっっ。あ、エイジーっ、今日オレ5階の間仕切り配線入るからーっっ。絡みあるけどよろしくなーっっvv」
 コウイチは、谷田に引きずられたまま、子供みたいにブンブンと大きく手を振っている。
「じゃあね〜vv」
と、ヤツはそのまま電気屋の休憩所にと連行されて行った。
 気が付けば、水飲み場に一人残されていた。
 「………あんの…バカ。仕事の話ぐらい普通に出来ねぇのかよっ…」
 朝一番の、現場のホコリをかぶる前の、洗いたてのトレーナーの匂いが残った。
 「………バーカ」
 人をカワイイ呼ばわりしやがって……。お前だってカワイイくせに。
 「……チビだからってバカにしやがって……」
 ブツブツ文句を言ってみた。
 ぐしゃぐしゃにされた頭を手で触ってみた。
 「…………ぐしゃぐしゃじゃねーか…」
 バーカとか、アホーとか心の中で叫びながら、5階の絡みか…と考えた。
 多分、同じ部屋で一緒に仕事をするのが久し振りだったから。 
 楽しみだな…なんて思ってしまった……!!
 「……………アホかオレは」
 散々チビよばわりされてんのに。なぜかあいつだけは憎めない。

 ま、オレ、根っからの職人好きだからな。
 頭に来るが、あいつって、ある意味本物の職人だしな。

 「………さて、やるか」
 ヘルメットを被り、ハンマーをぎゅっと握りしめる。
 「安全第一っ」
 よしっと、気合いを入れてハンマーを腰道具にセットする。
 くっそーっ。チビだからってバカにすんなよっ。仕事で勝負だっ。
 
 オレは、なぜかいつもより少しだけご機嫌な気分で、現場の方へと歩いて行った。

おわり  

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