おまけssです。

 「ケイちゃん……おいっ、ケイちゃんっっ」
 「……………んが…」
 「………ったくもー…掃除全然終ってないじゃんかよ…」
 大晦日の午後2時。
 ケイちゃんは干した布団の中で爆睡中だ。

 一見何も考えていないように見えて、 本当はとことんまで突き詰めて考えてたり。
 一度決めたら、回りが何と言おうと貫き通す。だから、頑固なヤツだと誤解されたり。
 負けず嫌いだし。セロリ嫌いだし。笑った顔はまるでガキみたいだし。
 おばあちゃん好きなところとか、子供にやけに好かれるようなキャラクターとか。
 ベッドがあるのに床で寝てる方が遥かに多いところとか、見た目絶対苦手そうに見えて、実は物凄く料理上手な所とか。
 ラグビーやってたなごりが残ってる筋肉とか。ゴワゴワの固くて真っ黒の髪の毛とか。やたらとはっきりした顔だちとか。
 デカい手とか。俺より高い体温とか。
 寝顔とか。
 ………とか…。
 何でも知ってるなんて思ってたけど、一緒に暮すようになってから、分かったことも一杯ある。
 しょっちゅうケンカもするし、その中の何回かは(…もうダメだ)って思うくらいのもあったけど、気が付けばもう人生の半分以上を一緒に過ごしてる。
 ………好きだからだよな…それって、やっぱり。


 昨日の夜、俺のベッドの中から出る時に、
 『なぁなぁ、明日大掃除しない?』
 なんて提案された。
 『ん…良いよ』
 ぐったりしてて頭もボーっとしてたから、深く考えずに返事して、そのまま眠りに落ちてしまった。
 そしたら休みだって言うのに朝の6時から叩き起こされて、
 『はいっ。起きた起きた。サトちゃん、今日大掃除するよーって言ったら、良いよーって言ったよなぁっ』
 と、満面の笑みで言われてしまった。
 まぁ、10月に交通事故で腰の手術をしたばっかり(の、割にはきっちりフルコースでされたけどね)だから、一人でやらせる訳にもいかない。
 眠い目を擦りながら決死の気分で起き上がり、だるい身体を叱りつけながら服を着て、ケイちゃんの作った朝飯を何とか眠ったままの胃袋に詰め込んだ。
 『…んで?俺、何する?』
 『えーっとねー…取りあえず洗濯からかな』 
 『布団は?干す?』
 『あ、そーだな。干そっか?』
 『んー。だったらケイちゃん、シーツ外して洗濯出しとして』
 『ん。分かった。……んじゃ、頑張ろうなっっ』
 『はいはい…』
 取りあえず言われた通りに洗濯物から片付け始める。
 ケイちゃんが、何だかやけに楽しそうに丸めたシーツを持って来ながら、
 『夕方までにはピカピカにしよーぜっ』
 なんて言いながら、担当(?)の風呂場へと向かっていった。


 男二人で住んでいる家なんて、よっぽど神経質に掃除しない限り、どことなく汚い感じのするもんで、フル回転している洗濯機を眺めていたら、洗濯機自体がうっすら埃を被っているのに気が付いた。
 洗濯物の中から、貯金した時に貰ったタオルを引っ張り出して、擦ってみる。
 すると、薄汚れた層の下に真っ白な洗濯機の本体が見えた。
 (あれ?コレってオフホワイトだったっけ……?)
 ゴシゴシ擦るとどんどん真っ白な本体が見えてくる。
 段々ムキになって、最後には掃除用の洗剤まで引っ張り出して来た。
 『サトちゃーん。今、手ぇあいてるー?』
 『悪いっ。あいてなーいっっ!!』
 タイマーから、洗濯槽の側面まで。結局全部磨き出す結果となった。
 真っ白な新品みたいに見える冷蔵庫。
 ちょっと気分が良い。
 ……ところがこれがマズかった。
 床の汚れや、冷蔵庫の汚れや、食器の汚れが我慢出来なくなってしまった。
 ああ…まいった。
 ……だから掃除は苦手なんだよなぁ………。
 一時間後、お勝手には、スチールたわしで、一心不乱に鍋の焦げを取っている俺の姿があつたのだった……。


 デリバリーのピザの昼食をすませて、がしがし掃除をしていたら、ガタガタ何やらやっていたケイちゃんの気配がなくなった。
 暫くたったら、物音すら聞こえなくなった。
 もしやと思って名前を呼ぶ。
 「ケイちゃーん?」
 …………。
 返事無し。
 何度か繰り返しても返事無し。
 気になって、探していたら、取り込んだ布団の山の中ですやすや眠るケイちゃんを発見したのだった。

 
  「ケイちゃん……おいっ、ケイちゃんっっ」
 「……………んが…」
 「………ったくもー…掃除全然終ってないじゃんかよ…」
 大晦日の午後2時。
 ケイちゃんは干した布団の中で爆睡中だ。
 叩き起こして怒ってやろうと思って、肩を掴んで………止めてしまった。
 「…………」
 腕を組んで、すかすか寝ているケイちゃんは、何だかとても気持ち良さそうで。
 ………。
 全く…。
 大掃除やろうとか言ってたのは誰だよ…なんて思いながら、暫くケイちゃんの寝顔を眺めていた。
 無防備で。
 警戒心の欠片もなくて。
 口を開けて。
 ………可愛くて。
 俺は、眠るケイちゃんに、小さくそっとキスをした。
 「………」
 かける言葉が見付からなくて。
 
「……今年もお世話になりました」

 なんて、言ってしまった。
 
 言ってから、自分で自分が恥ずかしくて、履いていたスリッパで思いっきり頭を叩いてやった。
 「いって〜〜〜〜っっ………」
 「何寝てんだよっっ!!掃除っ、ピカピカにするんだろ?」
 あ、いけねっ……って、言ってる顔が、また子供で。
 惚れ直しそうだから止めてくれ。
 まるで恋人バカみたいだよ……。
 

 日が暮れるまで掃除をしよう。
 綺麗な部屋で年を越そうよ。
 綺麗な部屋で年を迎えようよ。
 一緒に、さ。

 今年もお世話になりました。
 今年もどうぞ宜しく。
 今年も…良い年に、しよ。 
 

           おしまい     TOPへもどる