IN FUTURE

 シン宛に毎月届く手紙がある。

 「山城」のテアイからの手紙だ。

 

 ---てあい、かん字もおぼえたよ---

 とか、

 ---きのうてあいはわるいもうりょうやっつけたよ。すごい?---

 とか。

 ---おなかこわした---

 なんて、たまにどうでも良い用事まで書いて送ってくる時もある。

 テアイから手紙が届く度、嬉しそうな顔をするシンを見るのはムカツクが、テアイは特別。

 仕方が無い。

 

 テアイは「山城」の当主だ。

 一年前、同居人のシンの身替わりに山城一族の頂点に立った、なりたてホヤホヤの当主。

 チビでアホで未知数のガキ。

 多分、絶対にライバル。

 

 「山城」は某県島国の山間部一体を古くから守る一族だそうだ。

 ちなみにシンはその直系の子孫。

 シンはあんまり話したがらないから俺もなるべく無関心でいるように心掛けてはいるものの、かなりヤバい一族だと思う。

 俺も実際自分の目で確かめた今となっては信じるしかないが、ナチュラルに呪術らしきものが日常生活に密着している。

 山城一族はまず家自体がエラく特殊で、実家意外に当主専用の特別な「家」が存在している。一族にとって一番重要なその家は、

山奥にひっそりと人目を避けられて作られていた。とにかく物凄い山奥で、道に迷えば多分遭難は楽勝だ。車である程度までは通れ

るようにはしてある道も、最後の4-5キロは自力で獣道じみた細い道を辿らなくては辿り着けない。

 俺は…呼ばれて何とか行けたけど、基本一人じゃ絶対行けない家だ。

 電気もガスも水道も無い家。

 やたらと存在感があった。茅葺きの古い日本家屋。絶えず視線を感じる無気味な感じの家。日が落ちると部屋の隅は薄暗く、天井

の梁は真っ暗で見えなくなった。なんかいそうな感じが絶えずしていた。俺は霊感とか、そういった類いのものはきっぱりないが、

あの家はそんな第六感なしでもかなりのホラー体験が出来る。背後に気配バリバリなのだ。人の気配に辿り着く前に得体知れない何

かの気配の方にぶつかる。ひじく恐怖感を煽る家だった。

 俺にとってはもう最悪の家だったが、山城一族にとっては全ての儀式を執り行うものすごく重要な家なんだとあの時テアイは教え

てくれた。

 土地を守る変わりに一族は守られるのだと本気で信じている奴等は、「留まる」ことに執着している。

 土地に留まるために家を作り、家を守る。一族で選ばれた一人は生きている間家に留まることを余儀なくされるために片手片足を

切り落とす。自力で逃げだせない一人は一生家に留まらされる。自由の代償は「当主」としての最高の地位。

 一年前、シンの親父さんがなくなったことで始まった次期当主選び。

 一度はシンが当主に決まった。

 一族に力ずくで奪われたシンを奪い返しに行った一年前のあの日。

 古い日本家屋で、俺はテアイに出会った。

 シンのいとこ。「当主」の家の使用人の水屑さんという人の妹。

 山城一族の中でたった一人、シンを守ろうとした俺より十一も下のガキ。

 シンを助けるために、最後にシンを俺に託し、自分の片手と片足を一族に切り落とされた女。

 ………あの時、テアイが俺を受け入れてくれなかったら……手足を切られて家に留まらされたのは…シンだ。

 テアイは俺を一目見て、俺の気持ちに気が付いた。

 あの時のシンの気持ちもテアイだけが解っていた。

 だからあの日、テアイは俺達をあの家から逃がしてくれた。

 

 -----篤とテアイ、どっち大事ですかっ!!篤捨ててテアイ取れますかっっ!!!-----

 

 テアイは、多分、シンの事が、好きだったんだ。

 俺と同じで。

 

 シンが好きだったから、テアイはシンの代わりに家に繋がれた。シンの代わりに「当主」になった。

 叶わなくても、テアイはシンを愛してた。

 ………なんか、くやしい。

 テアイがシンを愛してくれてたから、こうして俺は一年が経った今もシンの隣で生活出来るんだなと、時折思ってみたりする。

 ここ東京から遠く離れたあの家で、テアイのことを考えてしまったりする。

 なんだかいつももやもやしてて。

 毎月覚えたての汚い字で、一生懸命に書いた手紙が届く度に安心して、ムカツいて、嫉妬して……悔しいことに嬉しくなる。

 

 

 当主騒動(?)から一年。

 俺は自分のアパートを引き払って、シンと一緒に暮らし始めた。自分に素直じゃなきゃダメだと思い知らされたからだ。

 バカな意地張って、もう二度と会えなくなるかもしれないなんて、冗談じゃない。もう二度とあんな思いはしたくない。どれだけ

シンが好きなのか、本当に思い知らされた。側にいられることの大切さを身にしみて感じた。想うだけでも記憶の中だけでもない。

隣に座れる。側にいる。見える。話せる。触れる。キスが出来る。当たり前で奇跡的なこと。

 「シン」

 「…ん?」

 「ほら、コーヒー」

 「ん。サンキュ」

 「熱いぞ」 

 「…ん……あちっ」

 「バーカ」

 望める、実現出来る未来。

 「………ん?」

 テアイがくれたあれからの「毎日」と「明日」

 「…………キス…してぇ」

 シンが微笑う。本を閉じる。俺は眼鏡を奪う。

 コーヒーで熱くなったシンの舌。

 せめて、俺は素直になろうと思う。

 「………セックス……したい」

 「……まだ昼間だぜ?」

 「今やりてぇの。関係ねぇもん」

 ワガママだなぁ、と、笑われた。

 引き寄せられてTシャツの裾から手が差し込まれ、腰に直にシンの大きな両手を感じた時、突然泣き出しそうな気分になった。

 

 そのままソファーで始まった。

 俺が服を脱ぐと、うつ伏せに倒された。

 項の辺りから肩甲骨をなぞるように舌で舐められる。ゾクッと感じると、ペニスが熱くなりだした。俺の気持ち良い所を探すよう

にシンがゆっくり舌を使う。脇腹を伝い、腰骨の辺りを強く刺激する。両手は触るか触らないか位に軽く身体全体を撫でる。弱い場

所に指先が触れる。

 「んっ…」

 思わずクッションに顔を埋めた。素直でいたいとは言え、さすがに自分の甘ったるい声は聞きたく無いし、聞かせたく無い。

 「……!!」

 クッションを掴んで顔を埋めていたら、シンに突然腰骨を両手で捕まれ引き上げられた。顔はそのままで、うつ伏せで、ケツだけ

シンの目の前に突き出した格好。

 「やっ…てめっ……うっ……んんっっ……」

 後ろを舌で攻められる。これは…本当に弱い。思わず足が緩く広がる。クッションに押し付けていた顔が思わず上がる。

 「あっ……」

 シンは微妙な反応の変化に気付いて、ケツに親指をかけて広げ、ソコをむき出しにする。

 「シンッ……あ…うっ…うっ……ん…」

 ここが弱いのを知ったのはシンだ。いつも俺が感じ始めると刺激してくるせいで、前に比べてひどく感度が増してしまった。恥ず

かしくて 声をクッションに吸収させようとしたが、強い刺激は腰も頭も落ち着かせない。

 「あっ…あっ……シン…っ……もっ…」

 「…篤…どうして欲しい?」

 素直に………なんて考える余裕もなくて。

 「……………も……もっと……」

 身体を反転させられた。

 

 ペニスは高く頭を持ち上げ、もう先走りが漏れ始めている。感じてる顔を見せるのは恥ずかしくて、思わず両手で隠した。それを

軽くこじ開かれてディープキス。息苦しくて逃げ出して、口を開いて息を吸う。同時にシンにペニスを銜えられた。

 「あ!!ううっっ!!」

 歯と舌に絶えまなく扱き上げられる。根元を捕まれ、頭の方を吸い上げられる。片方の手が後ろと袋を揉みしだく。

 「あっああっあんっっあんんっっっ」

 喘ぎ声が止まらないっ…。

 一気に追い詰められるような快感が走った。両手で口を押さえて、我慢出来なくなって頭を掻きむしって。ソファーを思いっきり

掴んで。とうとう最後はシンの頭を必死で掴んで自分の股間に押し付けた。狂ったように腰が震えた。

 「もっと…っ…もっと……シンッ……あっ!!…もっと……も---」

 ものすごい快感がが頭まで突き上げる。激しく喘ぎ、快感にのたうちまわった。もう気持ち良くって何がなんだか分からなくなっ

てきた。

 もう少しでイキそうになると、シンが根元を強く掴む。苦痛と快感が背筋を走る。何度も何度もじらされる。俺はむちゃくちゃに

腰を振って快感から逃げ回った。シンは力で押さえ付け、熱い舌で鈴口を扱いて吸い付く。とうとう俺は泣き出してしまった。

 「…シン…シン…っ…あ……もうイカせ……て……たの…む…からっ……はうっ…」

 それでも暫く焦らされて、俺が嗚咽を漏らす頃、ようやく掴んだ片手を外して貰えた。

 シンの長い指が…そのまま……後ろの穴に滑り込む…っ……。袋をきつく扱かれて、ペニスの先を嘗め広げられる。

 「----------っっっ!!!!!」

 突き上げるような絶頂が襲う。一気に放出しようと反応する。瞬間シンがペニス全部を喰わえ込み、絶妙のタイミングで吸い上げ

た。俺はそのあまりの快感にそのまま意識が遠のいた。

 

 ほんの数秒俺は気を失っていた。

 目を開けるとシンが心配そうに俺の顔を覗き込んでいた。

 「…………」

 「篤…大丈夫か…?」

 その心配顔があんまりにも本気の心配顔で思わず笑ってしまった。

 「な、なんだよ」

 俺は笑いながらシンに擦り寄った。シンの固いペニスが太ももに当たる。

 一年前、一度は引き離された俺達をテアイは守ってくれたから。あの日が最後だったかもしれなかった俺達にテアイは未来をくれ

たから。せめて俺は自分に素直でいたい。取り戻したけど、奪いもしたから。せめて、必ず幸せになる。俺はシンが好きだから。

 「………セックス…しようぜ……」

 俺は自分から大きく足を開いて誘った。

 

 

 「あら、テアイどうしたの?顔、真っ赤よ」

 「…………なんでも…ない」

 

 山城一族は特殊な能力を持って生まれる確率が高い。

 意図的に血を濃くした結果の一つで。

 テアイが当主になってから、いくつかの特殊能力が開花して、その中の一つに透視が入っているのを知ったのは、それからまた暫

く経ってからの話。

 末恐ろしいのは山城の当主(怒)

 

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