【fig】

2


 『カチリ…』
 敷地の一番奥にある蔵の前に立ち、頑丈な錠前を外す。
 力を込めて扉を引くと、錆びた音を立てながら扉が開く。
 人一人やっと入れる程の隙間が開くと、身体を滑り込ませるようにして隙間から中に入る。直ぐ目の前には今度は木製の扉が出て来る。鍵の束から別の鍵を取り出しまた開ける。
 明かりを灯し奥に進むと、改築した一角に突き当たる。
 突き当たりには、改築された部屋がある。
 そして、部屋の中には、獰猛な陰間が一人住んでいる。

 

 「ゾロ」
 「側にいる」
 部屋の扉の直ぐ側で声を掛けると、いつものように扉の直ぐ向こう側から返事が聞こえた。
 鍵を開けると、ゾロが表情も無く立っている。
 「珍しいな。今夜は籠って絵を描くんじゃなかったのか?」
 「そのつもりだったが、状況が変わったんでな」
 「そうか」
 「もう一人、相手をしてもらいたい」
 ゾロは一瞬口を噤んだものの、何も聞かずに頷いた。
 「ああ、分かった」
 用意する、と、踵を返したゾロの背中に声を掛ける。
 「いや。今夜は別の場所でして貰いたい」
 振り返ったゾロは、今度は幾分かではあったが驚いたような表情で儂を見た。
 「ここから俺を出すのか?」
 「ああ。悪いか?」
 「…良いのか?俺はお前を殺すかもしれないんだろう?」
 「それならそれも一興だ」
 ゾロの目が僅かに丸く見開かれる。
 「…どうした?」
 「別に何も」
 頑丈な扉を開け放つ。
 ゾロは儂と扉を交互に見ながら、二年間、越えることの無かった敷居を跨ぎ外に足を踏み出した。
 
 

 今でも、昨日のことのように思い出すことが出来る。

 ゾロは、二年前儂の庭に迷い込んで来た。
 何があったか知らないが、彼は瀕死の重傷だった。
 椿の木の下に崩れるように横たわり、もはや呼吸すらままならないような状態だった。
 自分の身体から流れ出ようとする血も止められず、丸めていただろう身体も、儂が見付けた時には弛緩していた。
 少年特有のまだ大人になり切っていない瑞々しい身体。
 皮膚の下の筋肉は発達の余地まだ多く幼い。
 鍛えればやがて隆々と、質感のある身体へと変化して行くだろう。細い手足にすら、既に片鱗は見え始めていた。
 意識を失い、ただ死に行くばかりの少年が縋るようにして抱き締めていたのは二本の刀。
 『………』
 儂は目を離すことが出来なかった。
 
 死に行こうとしている少年。
 手入れを施したばかりの庭に横たわる少年。
 苔庭。
 庭の椿。
 月夜の明かり。
 地面に落ちた無数の花。
 美しい朱色の椿。
 そして。
 椿とは似ても似つかぬ、どすぐろい血潮の赤。
 確かな質感と重量を持つ二本の刀。

 物騒なのは一目で分かった。

 
 だがそれ以上に、目の前の光景は美しかった。
 安易に通報してしまい、少年を手放すことになるのが惜しいと思った。
 口の堅い医者を呼びつけ、ぐったりと身を任す少年を意識の無い内にと長年使っていない蔵の中へと運び入れた。
 傷を縫合し、化膿止めの薬を施し、栄養を与え、安静を与えた。
 少年は一週間眠り続けた後、ようやく意識を取り戻す。
 『………っ…』
 

 儂に掴まるまでは剣豪を目指していたそうだ。

 

 射るような瞳。貫くような視線。
 身体の造りを見る限りでは、まだ少年の筈なのに、既に殺人者の目と成っていた。
 今まで進み続けて来ていたのであろう道の凄まじさに息を呑んだ。
 また、同時に、あれほどまでに恐ろしい目を美しいと感じてしまった。

 あのままゾロを見捨てていれば……
 一体どんな今日を過ごしていたのだろう。
 画の世界に生きるこの儂に投じられた、あの一石が無かったら…。
 果たして今も絵を描き続けているのだろうか…

 ……いや多分…ゾロと出逢わなかったとしても、儂は今日絵師であろう。
 ただ、確実に言えるのは。

 
 道無き戀に苦しむことも無かっただろうと言うことだ。

 

 

 

 儂の館の中にも、普段は人を入れない場所がある。
 その一つがこの奥座敷だ。
 細長い廊下の奥にある六畳程度の座敷の間。
 建築の際に特別に音が漏れることの無いように四方を倍以上の漆喰で固めた部屋だ。
 完全に閉めてしまえば叫び声すらほとんど漏れない。
 かつては外から呼んだ男女を交わらせ、見ながら描いた『寝屋の間』だ。
 ゾロを手に入れてから、もう長いこと使わなくなった部屋の一つだ。
 行灯の明かりは二つ。
 一つは交わる者達の為。
 一つは儂が絵を描く為。
 サンジに自分で用意させた、一組の寝具。
 既に一糸まとわぬ姿で横たわるゾロ。
 直ぐ側に、一枚も服が脱げずに困ったように座っているサンジ。
 ゆっくり墨を摺ってやったというのに、摺り終わっても何も出来ずに座っていた。
 「…おい」
 呆れたようにゾロがサンジに声を掛ける。
 「今更だろう?」
 「いっ…今更って…なぁっ…」
 「いつもと変わらねぇぜ?」
 「んなことある訳ねーだろっ」
 ゾロは見たことも無いような表情でクスッと笑うと、儂の方に顔を向ける。
 「光斎」
 黙って視線を合わせてやると、ゾロはことも無さげに聞いて来た。
 「あんた、俺達がヤッてたの、見たことあるだろ?」
 「……ああ」
 「な?」
 「なっ……『なっ?』って…っ!!先生?!」
 サンジはアワを喰ったような顔をして儂を見る。
 儂はおかしくなってニヤリと笑い、小さく何度も頷いた。
 「思ったよりも立派なモノを持っているな」
 「っっっ!!!」
 絶句しているサンジを見て、ゾロはとうとう声を上げて笑い出した。
 「わっ笑うなっ!!」
 「何だよ。そんなの当たり前だろ?お前、最中に覗き窓の音聞かなかったのかよ」
 「『覗き窓』?」
 「俺の部屋の右手の壁の細工のことさ。こう…組み木みたいになっていて、カタカタ動かすと覗き窓が出来るんだ。開け方は細工を作った大工と、コイツしか知らない」
 「〜〜〜〜〜っっ〜〜」
 目元を赤く染めて、サンジは儂を睨み付ける。
 「何してくれてんだよ…もーっっ……」
 ブツブツとぼやくサンジの太腿に、ゾロがとうとう手を掛けた。
 「なぁ、ヤるのかヤらないのか?」
 「……っ……ああ……」
 唾を飲み込むような仕草の後、意を決したかのように、サンジは自分の上着に手を掛けた。
 一番上のボタンを外すと、ゾロが手伝うように残りのボタンを全部外した。
 「………」
 サンジの胸の筋肉を確かめるように手を滑り込ませ、そのまま肩口から背中の方に掌を差し込み、上着を滑り落とした。
 覗き窓から見慣れたサンジの細身の上半身が露になった。薄い筋肉が形良く骨を覆い、身体を作り上げている。
脚力が強いのだろうか、背中の筋肉が非常に発達してて、背中の線は想像以上に力強い。
 ゾロもサンジの背筋が気に入っているのか、抱き着くような姿勢のまま、背中の方に手を回し、いつまでも気持ち良さそうに撫で擦っている。
 サンジはぎこちない動きのまま、胸元辺りにあるゾロの頭をそろりと撫でた。ほっそりとした指が、ゾロの緑色の髪の中に埋もれ、さわさわと確かめるように動いている。
 やがてゾロがサンジのズボンに手を伸ばし、ベルトの金具を外し始めた。
 カチャカチャと金属音を立てながら、ゾロはサンジの服を脱がす。一物の正面に顔を移動し、下からサンジを見上げた後、そのままズボンの上から頬擦りをしていた。
 「…っ…」
 最初の刺激に感じたのか、サンジは身体を僅かにくの字に曲げ、もどかしそうに自分からズボンと、そのまま下着も脱ぎ去った。
 「…綺麗だな…」
 呟いたのは儂ではなくゾロだ。
 呟くように漏らした感想は、或は本人も言ったことすら気付いていないのかもしれない。
 「…ばか…」
 声に出さずに唇だけ動かし、サンジはようやく一糸まとわぬ姿と成った。

 まずはサンジは立ったままで、ゾロに奉仕を受けさせられた。
 狭い蔵の中での性交のせいか、密着している時間が長い。お互いに出来る限り肌を密着させ合い、ほとんど一つになった状態で、ゾロはサンジの一物に舌を這わせる。
 「…っあ…っ…」
 サンジの身体を知り尽くしたのか、的確に性感帯を責めているようだ。証拠に、一物は加速しながら天を向き始めている。
 感じるごとに身体を震わせながら、腰を揺らし始めるサンジに、ゾロは満足そうに目を細めると、口を喉まで上手に使い、片手は自分の物を掴み、片手はサンジの棹の部分を絞るように扱き始める。
 「ばっ…早いって…」
 恍惚とした表情を浮かべかけたサンジは、我に帰ってゾロを引き剥がす。
 ゾロは黙って口元だけで笑い、
 「なら、今度は俺にしてくれよ」
 と、誘うように自分から布団の上に仰向けに倒れ込んだ。
 「……っ…」
 背中が寝具に包まれた瞬間、ゾロが驚いたように身体を僅かに震わせた。
 「どうした?」
 ゾロの上に覆い被さりながらサンジが尋ねる。
 「ああ…いや……っ…」
 強めに握り、サンジが笑う。
 「どうしたよ?」
 ゾロは少しだけ憮然とした表情でサンジを睨み、すぐさま扱かれ始めて襲って来た快感に喘ぎの吐息を漏らした。
 「…何だよ…いつもより感じてるんじゃねーの?」
 「…うるせぇ…っ…んっ…」
 「何でだよ?言ってみろよ…っ」
 「んあっ……っ!…クソ…っ…背中が……」
 「背中?」
 牛の乳を搾るような手付きで扱かれるのが相当に感じるのだろう、既に達する姿勢に入ろうとしながら、白状した。
 「柔らかくて…っ…んっ…気持ちが…っ…いい…っ」
 ほう……そうなのか。初めて知った。背中は柔らかい感触に弱いのか。
 「…へぇ…そーなんだ…」
 サンジも意外だったらしい。
 「じゃ、背中、弱いんだ」
 そう言うと、ゾロの身体を俯せにさせ、ごく軽く指先だけで撫で始めた。
 「ううっ…んっ……」
 ゾロの表情が変化を始めた。
 目を閉じ、快感を追い始める。
 サンジよりも一回り厚くつき始めた筋肉が、喘ぐごとに収縮を繰り返す。
 「へぇ…」
 後ろから覆い被さり、舌で舐め、脇腹をくすぐり、尻を撫で上げる。
 「な…んで…っ」
 戸惑うようにゾロが喘ぐ。たまらなくなったのか、自分の一物を激しく擦り始めた。
 間もなくゾロは達してしまった。
 自分でもあまりに早く昇天させられてしまったことが信じられないと、怒ったような表情で寝具の中に倒れ込む。
 「見られんの、好き?」
 「俺はな。しょっちゅうだし。お前は?」
 「やっぱ、恥ずかしい」
 「何だよまだそんなこと言ってんか?」
 修行が足りないとか何だとか言いながら、ゾロがサンジを押し倒す。
 「一回見せれば後は同じだぜ?」
 勃起したサンジの物を掴んでゾロが一気に身体を沈み込ませる。
 「んっ!!」
 「あ…はぁ……」
 呼吸を整える間も無く、ゾロが自分の尻でサンジを犯し始めた。
 「うっ…うっ!うっ!ゾロっ…!!早いって…っ…」
 「俺はコレぐらいが良いんだよ」
 「何だよ勝手なこと言いや…っがっ…て……!」
 張りのある身体がサンジの飲み込み、自らの腰の動きで快感の波を引き寄せる。
 サンジは突然始まった性交の快感に襲われながらも必死で堪え、何とか主導権を取ろうと必死だ。
 サンジが腰で深く突き上げれば、ゾロが身体を跳ね上げらせ、ゾロが身体を沈み込ませ、腰を震わせながら素早く上下運動すると、サンジの身体がビクリと震えた。
 戯れ合うようにお互いがお互いを責め合う姿は、性交というよりも、子供の戯れあいのようにも見える。
 結局ゾロの技量の高さが最終的に主導権を握らせることになってしまったが、間髪入れずに今度は正常位で始めれば、背中の柔らかな感触に飲まれ、始終サンジに翻弄されて喘ぎの声を上げさせられた。

 二人は何度も何度も行為を繰り返した。
 最後には、疲れているのか感じているのか判断がつかない程に呼吸を乱していた。
 
 途中、一度だけ、酷く卑猥な交わりがあった。
 刺激の強さにお互いが亀頭を赤く腫らせた一物をゆらゆらと擦り合わせながら、口付けを繰り返していた。
 普段絶対相手の名前を言わないゾロが、熱に浮かされたような顔をして、サンジの名前を呼んでいた。
 サンジの耳に届いていたのかは定かではない。
 ゾロが何度目かの絶頂を欲しがり、サンジの頭を引き寄せる。いつもの力強さは陰を顰め、相手を見下すような仕草も無い。
 ただ、無心に快楽に溺れ、縋り付くようにサンジの頭に手を伸ばしていた。
 「……っ…」
 どこかで見た光景だと、記憶が感じた。
 サンジの頭を引き寄せて、掠れた声で何かを囁く。
 サンジは嬉しそうに表情を崩すと、いつもの可愛らしい笑顔ではなく、どこか色気を含んだ男の顔で、ゾロの身体を優しく開いた。
 ゾロはもう目も開けられない。
 ぐったりと身体を弛緩させ、丸めていたかったのだろう姿勢も完全には保つことが出来ない。
 観念したように目を閉じ、挿入されたサンジの一物に揺さぶられ、もう喘ぐこともままならず、息絶えそうに翻弄される。
 サンジは目を細め、なされるがままのゾロを愛しげに見下ろし、ゆっくりとゆっくりと腰を揺らず。
 長い悲鳴をゾロが漏らした。
 大きな声ではなく、吐息がそのまま叫びに変わったかのような声だった。
 切なげに眉を顰め、身体のどこも早く動かすことはおろか、自分の意志で動かすことも旨く出来ず。
 相手に全てを委ね、訪れる絶頂をただ静かに待っていた。
 やがて望む絶頂。
 緩く閉じられた目尻から、一筋の涙が伝って零れていた。

 一拍遅れてサンジも達する。
 ゾロは身体の中に撃ち出された精液に、もう一度、揺さぶられていた。

 一物を抜き取り、ぐったりと隣に倒れ込むサンジ。
 ぶつかった右手に、ゆっくりとゾロは手を伸ばし自分の中に抱きかかえた。

 …………ああ………

 思い出した。
 

 何があったか知らないが、彼は瀕死の重傷だった。
 椿の木の下に崩れるように横たわり、もはや呼吸すらままならないような状態だった。
 自分の身体から流れ出ようとする血も止められず、丸めていただろう身体も、儂が見付けた時には弛緩していた。
 少年特有のまだ大人になり切っていない瑞々しい身体。
 皮膚の下の筋肉は発達の余地まだ多く幼い。
 鍛えればやがて隆々と、質感のある身体へと変化して行くだろう。細い手足にすら、既に片鱗は見え始めていた。
 意識を失い、ただ死に行くばかりの少年が縋るようにして抱き締めていたのは二本の刀。

 

 「………」
 儂は目を離すことが出来なかった……。

 最後の一回が終った後、二人は落ちるように眠りについた。
 投げ出すように手足を伸ばして眠るサンジの横で、ゾロは身体を丸め、嬰児にもにた格好で眠りにつこうとしていた。

 交わりの最中に一枚も描くことは出来なかった。
 諦めることも出来なかった。

 やはりサンジは美しいと感じてしまった。
 ゾロは逸材なのだと再確認した。
 二人を一度に失うのは、辛いことだと心の底から理解した。
 だかしかし。もう潮時だろう。
 儂は絵筆を仕舞い立ち上がった。
 「………」
 ふと見ると、うっすらと薄く瞳を開いたゾロと目が合った。
 「………」
 「………」
 「ゾロ…サンジはもうじき旅に出る」
 「………」
 「お前はもう充分儂の側に居てくれた。…もう好きにすれば良い」
 「………」
 言葉すら返せないゾロに儂は精一杯に笑って見せた。
 「サンジを、頼むぞ」
 「………光斎」
 小さく儂の名を呼んだ。
 「………」
 「…俺は……」
 力の入らない、掠れ声でゾロは続ける。
 「あんたが死ぬまで……側に…いる」
 約束したんだ…言葉は最後は途切れて出なかった。

 

 

 

 吉原に一ト月間泊まり込んで時間を過ごした。
 一枚目花魁のロビンは、儂の心中を察して、何も言わずに側に寄り添い続けてくれた。
 儂はロビンの献身的な奉仕に助けられ、何度か僅かばかりに男になれた。
 「それじゃその子は剣士さんに戻ったのね」
 寝物語にゾロの話をしてやった。
 「…さぁ…帰って見なきゃ分からんな…」

 

 嬰児のように身体を丸めてこちらを見詰めるゾロ。
 弛緩した身体はぐったりと、周りの寝具に預け切ってしまっている。汗ばんだ身体からは、自分と、そしてサンジの精液の匂いが立ち上っているかのようだ。
 情事の後のゾロの姿。
 ロビンは大層喜んでくれた。
 「…私もこんな顔して先生のことを見上げてみたいわ」
 幸せそうね。
 愛する人に囲まれていたのね。

 目を細めて愛おしそうに、いつまでもいつまでも描き上げた絵を眺めていた。

 

 

 一ト月後、サンジとゾロは儂の帰りを待っていた。
 毎日のように儂の屋敷に足を運び、日がな一日儂の帰りを待っていたそうだ。
 酷く心配していたのか、帰った時には二人に散々怒られた。
 『いや、死のうと思って飛び出したは良いが、いざとなったら怖くてな』
 飄々と言い返してやると、当たり前だと余計に二人に怒鳴られた。
 怒られながら、愛されていたのかと変な所で納得出来た。納得出来たら、年甲斐も無く涙が出て来た。

 

 約束を守ると聞かないゾロを何とか説得し、旅立つ船に放り込んだ。
 年の近い仲間に囲まれ、二人の門出は華々しいものだった。

 

 いちじくの実が熟する頃、ふと二人のことを思い出す。
 生きて二人で居てくれれば良いと心の底から、今は思える。
 

 

 いちじくは無花果ではないんだよ。

 サンジの言葉には続きがあった。
 
 無花果は一日一つずつ熟して行くんだ。
 一つの実が熟すまでには一ト月。
 だから、『一熟』っていうんだよ。
 
 子宝、裕福、平安。
 実りある戀。
 あの実は幸福の象徴なんだ。

 見てるだけじゃ見付からないんだ。
 よく視て。花は咲いているから。

 

 

 top