【青い制服緑の髪】

15

 

 何だか落ち着かねェ。
 ただ『好き』だと考えるだけで、じっとしていられなくなりそうになる。
 あいつのことを考える度、ジリジリ焼け付くように胸が熱くなる。
 「……チッ……」
 今までのどんな感情よりも強くて、熱い。
 
  

 

 

 昨夜、店から半ば強引にサンジを俺の家まで連れて帰りセックスをした。
 一旦セックスが始まってからはもう、朝まで片時も離させなくなった。
 あいつは俺の下でのたうち回り、うわ言みたいに俺の名前を呼び続け、何度も俺にしがみつき、何度も俺にイかされた。恥ずかしがりながら乱れ、たまに悪態みたいな言葉を吐きながら俺の言葉に従った。
 らしくて、酷く興奮した。
 どうしようもなく、俺はサンジが欲しかった。
 ただ、純粋に、欲しかった。
 欲しいのは身体だけだと勘違いしていた。
 どうしても自分のものにしたかった。
 どうして同じ男が良いと思ったのか分からなかった。
 理由は何も見付からなかった。
 だが、それでも俺は夢中になった。

 

 俺と同じモノを俺と同じように赤く腫らせ、全身を仰け反らせながらイク度に、俺と同じモノを吐き出すサンジにどうしようもない程欲情した。
 ザーメンまみれになったサンジは、俺と同じ匂いを立ち上らせ、尽き果てたみてェにぐったりしながらも、俺の身体に熱を帯びた手を震わせながら、何度も何度も伸ばしてきた。
 『……なぁ……』
 サンジの掠れた声に俺はサカった。
 『まだ欲しいのか?』
 『…ああ…』
 『欲張りなヤツだな』
 『…誰のせいだよ…』
 『さぁな』
 『テメェ…っ……』
 蹴りでも喰らわせてこようとしたのか、ほんの少しだけ上がった右足を押さえ、やわやわと内太腿を撫で上げる。
 『う…ぁ…っ…』
 黙らせるのは簡単だった。

 汗ばんだ身体を密着させ、首筋に顔を埋めながら歯を立てて噛み付き、吸い上げた。『うう…っ…』唇に感じるサンジの反応に理性は吹っ飛び、狂ったように全身を舐め回した。感じる場所を見付け出しては悶える身体を押さえ付け、根を上げるまで攻め続けた。『やめろ…っ…て…ヘンに…なるから…っ……頼む…から…ぁ……』自分の唾液で濡れたサンジの肌が、どうしようもないくらいエロく見えた。
 最初から最後までずっと俺は興奮していた。
 限界まで敏感になったサンジのチンコに興奮し、俺に感じてのたうち回る身体全部に興奮した。仰け反らした喉元もに興奮して掠れて声にならない喘ぎに興奮した。
 正直言えば、あまりにも興奮し過ぎて細かい所はもう思い出せない。
 足りねェ…と、何度も思った。
 どんなにセックスしても足りなかった。
 もっと…っ…もっと欲しい…っ…!!
 『………サンジ…っ…!!……』
 自分じゃ無いような上擦った声。
 乱暴に両足を抱え上げ、ローションで濡らしたサンジのケツに勃起した俺のチンコを挿入する。
 『うんっ…!…あ…う…っ…』
 反射的にサンジは息を吐き出しながら俺を受け入れる。
 『ふ…っ…うっ…ん……』
 深く突き刺し腰を揺する。
 狭くて熱いサンジの体内は、グジュグジュと厭らしい音を出しながら俺のモノを限界まで飲み込む。締まったケツの奥は、吸い付くように密着してくる。気を抜けば、こっちの方が先に昇天させられそうな勢いだ。息を詰めて堪えながら感じる場所を探し、『そっ…そこっ…!…』一気に攻め上げ『イイッ!!あっ…!イイ…ッゾロォ…ッ』攻め落とす。
 快感がコントロール出来なくなる領域に堕ちたサンジの表情に、俺のチンコは限界まで膨れ上がった。
 『アッ…アアッ…ハ…アウ…ッッ!!』
 息も絶え絶えになりながら、サンジは何度も何度も俺のチンコを受け入れた。最後は視線すら定まらなくなったような顔をして意識を失いかけていた。それでも喰い千切るような勢いで俺のチンコを銜え込み、壊れたように乱れていた。
 止めたくねェと思った。
 このままずっと、サンジを感じさせたいと思った。
 イキまくるサンジの姿をいつまでも見ていたかった。
 『あっ!あっ!あっ!あっ!』
 限界を超えて感じさせたい。
 『ーーーーっっ!!!』
 目を見開いて、絶頂に飲み込まれる瞬間の表情を何度でもさせたくて仕方がなかった。
 俺は、サンジに夢中だった。

 

 最初は単純に欲しいだけだと思っていた。
 セックスの相手として欲しいだけだと思っていた。

 

 気が付けば何もかもが欲しくなっていた。
 身体だけじゃなく心も欲しくて仕方が無くなった。
 単純に、純粋に欲しかった。
 自分のものにしたくてしたくてたまらなかった。
 セックスしている最中が、一番手に入っているんだっていう気分になれた。
 なんでこんなにサンジが欲しいのか分からなかった。
 今日まで。

 『好きだ』
 って感情は、行き着いて導き出した答えじゃなかった。 セックスしている最中に、ぽかっと頭の中に浮かんだ言葉だった。
 好きだ。
 イきそうになっているサンジの顔を見ながら頭の中で呟いてみる。
 (好きだ)
 好きだ。
 お前が好きだ。
 『……ああ……』
 俺はサンジが好きだ。
 『………』
 ようやく答えが見付かった瞬間だった。
 感じ過ぎて最後には泣き始めたサンジを眺めながら、俺は……すげェ…嬉しかった。

 

 

 

 朝が来て、近くのコンビニで買って来た食材だけでサンジは随分品数の多い朝食を作って俺に食わせてくれた。
 ベッドの中で目が覚めると、パンの焼ける香ばしい匂いと、コーヒーの香りがした。俺の家で誰かが朝食を作るなんていう光景は何年振りだ?かなり久し振りなのは間違いない。
 『いつまで寝てんだよ』
 台所へ行くと、サンジが朝食を作っていた。
 『あと五分起きなかったらケリ起こすつもりだったぜ』
 運が良かったな、と言って笑った。
 『おはよう』
 サンジが俺に言った。
 金色の髪の毛がさらさらと眩しい。
 『ああ…おはよう』
 言われて咄嗟に挨拶したら、『ん。おはよ』サンジがドリップパックのコーヒー注いでいる湯から目を離さずに返事を返した。
 『ドリップパックだけど良いか?』
 『ああ』
 コトリ…と置いたマグカップからはベッドにまで漂って来たコーヒー豆の匂いがしていた。
 『ありあわせで悪いな』
 いや、旨そうだ…と、自然に口から言葉が出て来た。

 

 俺が朝食を食っている間、サンジは直ぐ側でいつも店でしているような穏やかな顔で俺を眺めていた。
 本当にいつも通りの表情で俺を眺めていただけなのに、何だか今朝は全然意味が違うような感じがして、ひどく意識しながら飯を口に運んでいた。
 おかげでトーストを二回床に落とし、残り少なくなったコーヒーのカップを取り損ねてひっくり返した。
 『なんだなんだ?落ち着いて食えよ』
 慌てて落としたトーストを拾い上げ、口に放り込んでいたら、『おっ、えらいな。でも落としたモンは無理して食わなくても良いからな』と言いながら、俺の顔に手を伸ばし、唇の端に付いたパン屑と、シャツの胸元に付いたパン屑を丁寧に取って微笑っていた。
 サンジが作った朝食だから、旨いのは間違いない筈なんだが、実は味をほとんど覚えていない。

 

 

 今日は一日一緒だと思っていた。
 『んじゃ、俺、店の用意があるから』
 って言われて、今日が平日だったことを思い出した。
 当たり前だがサンジは仕事だ。
 『俺、今日仕事だから』
 『休めないのか?』
 『そうそうと臨時休業にするのもマズいだろ』
 『俺は休みなのにお前は仕事に行くのか?』
 『ああ?そりゃそうだよな』
 『何でだよ』
 『はぁ?』
 『今日はずっとここにいれねェのか?』
 『へ?そりゃ無理だって』
 『何でだよ』
 『何でって…俺がいなくてどうやって店開けられるんだよ?』
 『休みにすりゃあ良いじゃねェか』
 『おいおい…随分無茶なこと言うなぁ。無理だって。そんなしょっちゅう店休みにゃ出来ねーって』
 『今日だけっつーのもダメか?』
 『コラ困らせんな』
 『ダメか?』
 『……どうしたよゾロ?』
 『……別に』
 自分でもどうかと思うくらい散々駄々を捏ねてやった 
 サンジは面白い形のマユゲを困ったように下げながら、俺の顔を覗き込む。
 『俺だってさ出来ることなら休みたいけどさ。ほら…腰も痛ぇし…さ。でも自分の都合ばっかりで勝手に休んでたらやっぱマズいだろ?お客さん来なくなっちゃうよ』
 『お前の飯だったら二ー三日休んだぐらいで客が来なくなる訳ないだろ?』
 『そうでもないよ』
 店長の顔したサンジが言った。
 『お客さんとは一期一会。俺はいっつもコレが最後だって思って料理を出してる。もしかしたら明日にはそのお客さんにとって。もっと旨い店が見付かって、俺の店はもう選ばれなくなるかもしれないからな。最低限、いつでも一番旨いモン、食わせなきゃならないんだ。でも旨いモンが食えるからっていつでも来てくれるって訳でもない。サービスも大事な戦略の一つだ。食いたい時にいつでも食える。楽しく食える。また食いに来たくなる。定休日でも何でも無い日に折角来てくれたお客さんに肩透かしさせるのは料理人として失格だ…ゾロも郵便局っつーサービス業やってんだから分かるよな?』
 反射的に分からねェって言い掛けて、やめた。
 サンジの言ってることは至極もっともだ。
 商品が良いなんて言うのは売り手としてもう最低限の約束事だ。モノが良くて売れるなら、別に自販機だけでも十分に商売は成立出来る。
 商売として成り立つには、付加価値は切り離しては考えられない。
 気分良く利用してもらうために挨拶、お辞儀、言葉遣いに身だしなみ。いつでも変わらない接客。笑顔。ニーズに合わせた対応、応対。
 血の通った人間にしか出来ないことはたくさんある。
 郵便局って言うのは最も身近な公共機関だ。
 自宅から全国平均で一・一キロの距離に存在するとも言われている。
 同じ郵便局どうしでも、営業に関してはライバルだ。
 一円でも他局よりも売り上げを伸ばさなきゃならない。
 高成績を上げるためには、一人でも多く客を呼ぶのが必須条件になってくる。
 扱ってる商品なんつーのは、どこの局でも全く同じだ。
 同じ商品を取り扱っている中で客に選ばれるには、ただ仕事をしているだけじゃ話にならない。
 サービスを無償で提供出来なきゃ駄目なのだ。
 無愛想な局員よりも、愛想の良い局員がいる郵便局に客が足を運ぶのは当然だ。
 きめ細かなサービスが提供出来て、初めて真のリピーターが出来る。
 分かっているが、俺にはどう頑張っても旨く出来ないことの一つだ。
 だから。
 内心俺は感心していた。
 俺達は散々本社や支社から『おきゃくさま第一』みたいな理念を押し付けられて来た。
 リピーターを増やすためにと、ビジネスマナーを叩き込まれた。
 効果があるのは知っている。だが、正直嫌々やっている。心なんて込めたことはほとんどない。
 見た目が良けりゃ、それで良いと思っていた。
 なのにサンジはさらりとサービスが戦略だと言った。
 俺みたいに組織の人間でも何でも無いのに、教えられた訳でもなく、サービスの本質をきっちり理解してるのが言葉の端からだけでも分かった。
 『ホントはここで一日のんびりしたいんだけどさ、お客さんが待ってるからな』
 俺は、何も言い返せなかった。
 『……そうか……』
 黙り込んだ俺をサンジが年上みたいな顔して見詰める。
 『拗ねるなよ』
 『拗ねてねぇよ』
 『拗ねてるって』
 『拗ねてねぇ』
 『分かった分かった』
 サンジは笑いながら俺の頭をグシャグシャ撫でた。
 『分かった分かった……ったくしょうがねェなぁ…』  『………』
 『可愛い顔してんなよ?』
 下から見上げるように覗き込まれて、むう…と、口を噤んでいたら、チュッ…っと軽くキスされた。
 『……っ!…』
 『なぁゾロ』
 『な…何だよ』
 『今夜はヒマか?』
 『……ああ…』
 ぶっきらぼうに返事をしたら、またサンジに頭をわしゃわしゃ撫でられた。
 『その代わりって言ったらなんなんだけどさ』
 それから、素早く俺の耳元に口を寄せて、俺しかいないのになぜか内緒話でもしているみたいなひそひそ声で耳打ちして来た。

 

 『ーーーー』

 

 『な?そしたら旨いメシ、食わせてやるぜ』
 『…ああ…分かった』
 サンジは俺のリアクションに満足出来なかったのか、俺の頭を小突いてきた。
 『んーだよっ、もっと嬉しそうな顔しろよ』
 それとも…と、サンジは続ける。
 『嬉しく無いのか?』
 慌てて否定したら、
 『…そっか』
 と、嬉しそうに、笑った。
 『んじゃ、おりこうさんにして待ってろよ』
 ガキ扱いされた気分になってちょっとムカついたが、サンジが嬉しそうな顔してるから良しとする。

 続く

 top 16