【かわいいこっくさんとこまったおやじ

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 た、たいへんですっっ。
 はらんばんじょうながらも、紙一重で安全なこうかいを
続けているごーいんぐめりーごうに、突如一匹の『オヤジ虫』が現れましたっっ!!
 しかも超さいあくなことに、オヤジ虫の中でももっとも手に負えない部類の『チョイワルノリオヤジ虫』が現れてしまったのです!!

 …え?ちょいワルオヤジなら格好良いから良いじゃないかですって?いやいやいやっっ。違います違います!!  よーく見てみて下さい。『ちょいワル』じゃなくって、『ちょいわるのり』なんです。そして『オヤジ』ではなくって『オヤジ虫』なのですっっ。ほら、見るからにテンション高そうでしょう?ね?
 どうやら食料の調達に寄港したニューブリッジ島で積荷にまぎれこんでしまったようですね。偉大なる大冒険のさいちゅうです。検疫なんてやっているヒマもない旅なんです。虫のいっぴきやにひき、紛れ込まない方がめずらしいくらいです。見たことも無いようなふしぎな虫が甲板を歩いていても、へぇ…珍しいのがいるんだなぁ…程度にしか気にしたりはしないのです。普段あんまり気にしていないものだから、たまにこんな災難がふりかかってしまうきけんは決してさけられないのです。
 それにしても…逃げ場の無い船の上でよりにもよってオヤジ虫に遭遇してしまうなんて……本当にぐらんどらいんって言う場所はおそろしいところです……。

 

 さてさて。

 このオヤジ虫、ぐらんどらいんの住人であれば、もしくは、ぐらんどらいんを航海するゆうかんなかいぞくであれば、誰もがかならず耳にしたり、時には運悪く目にしてしまったりする有名な虫です。
 酒場なんかで良くお酒を飲んでごきげんになっていたりするのは良く目にしますよね。
 オヤジ虫は、おかしまんじゅうにそっくりの幻覚虫よりもひとまわりぐらい大きなサイズをしています。
 ステテコカラーのオヤジくさい虫です。
 匂いも独特で、学問的には『かれー臭』と呼ばれています。
 この匂いは家族やじょしこーこーせーが嫌うので、オヤジ虫もかなり気を使っています。
 一時期テレビにも出演してしまうぐらい有名なこの虫は、実は伝説上の生き物でもある鼻行類の一種が突然変異したって言うんですからおどろきですね。
 伝説の鼻行類として羞じないようなとてもりっぱな鼻がオヤジ虫のトレードマークになっています。大きくて、だんりょくせいに富んだ鼻からは、ヒゲか鼻毛か良さ毛か……今ひとつはんだんにむずかしいものが数本たのしそうに飛び出しています。
 この虫は、歩行可能なまでに発達した鼻をもちながらも決して鼻を移動手段には使わず、ふつうにすたすたとよん本の足をきようにうごかしながら自由に動き回ります。
 主食はアルコールとおつまみです。
 ガード下の一杯飲み屋さんとかしゅーでん後のえきのほーむのベンチなどをねぐらにしているそうですが、その生態はまだまだしんぴのべーるに包まれたままです。昆虫王のふぁーぶるさんも、きっとけんきゅう途中でさじをなげたのでしょう。
 食事はにちぼつご。
 日がくれると程よくよっぱらったオヤジ虫があちらこちらで第二のせいしゅんをおうかしています。
 種としてはまだまだ進化のかていのとちゅうだそうで、鼻行類全体がたいりょう発生した世代の時に遺伝子のいじょうが起きて、まとまった数のオヤジ虫が発生するという研究結果がほうこくされています。
 ぐらんどらいんいでんし学てきに『だんかいの世代』と呼ばれています。
 居酒屋やまどぎわや宴会会場、ときにはゴルフ場などにも現れ、せつないギャグを言っては周りの気分を掻き乱したり、わかいおねえさんのおしりやおっぱいを見ると、ついつい後をつけまわしてしまうどうにも困った生き物です。
 ちなみにオヤジ虫、この世界で最も鉄道機関がはったつしている『にゅーぶりっじ島』が原産国です。
 にゅーぶりっじ島…いまさら言うまでもありませんが、すごい島ですよね。鉄道まにあにはたまらない島ですよね。とても高度な鉄道学がそんざいし、ぐらんどらいん上ではじめて蒸気機関車が走った島ですものね。
 鉄道学はめざましい発展をとげて、現在ではさまざまな鉄道機関車がうまれています。
 『ろけっとまん』などの海列車なんて言ったら、みなさんもとても良く知っている鉄道機関の一つですよね。
 その他にも山列車・街列車・高原列車・空中列車・ゆうれい列車に、それからえーと…あ、そうそう海賊列車なんていうのもありますね。
 とにかく数えきれないくらい研究が繰り返されて、プランクトンの数程あると言われている海賊団と同じくらいたくさんの種類の列車が発明、かいはつされているのです。
 そして、そのどれもが元を辿るとニューブリッジ島の鉄道学が原点なのです。凄いですよね。
 ああ、それから、高度な技術をほこるこの島は、とても好戦的な島でもあります。
 なんでも『りーまん』とかいう、ゆうかんな企業戦士が、日夜かいしゃのために闘っているそうです。
 そんな凄い島で生まれたオヤジ虫は、相手にしなければそんなにもんだいを起こす生き物って訳ではないのですが、いちいちやることなすことに気にしていると、きりがない上にだんだん頭に来てしまう厄介な虫だったりします。
 必要なことを伝えるのに、倍以上のやるせないギャグを言ってしまうタイプです。
 オヤジ虫のやるせないギャグ(学術的にはオヤジギャグと言います)を大人しく聞ける人間はたぶんそんなにいないと思います。
 エッチなもの(ぱんちら)やエロいこと(きゃばくら通い)が大好き。それから、周りにちょっかい出すのが生き甲斐でしかもかまわれたがりのちょっとおせんちな虫です。
 義理と人情(……虫情?)に厚く、ちょっとおひとよし(……おむしよし?)な虫であるのも特徴ですね。
 じゃくてんは、じょしこーこーせーに『オヤジくさーい』と、言われてしまうことです。
 どちらかといえば、限りなく害虫に近い虫です。
 そんな困った害虫だったらとっとと殺戮スプレーで退治してしまえば良いのですが、このオヤジ虫、一番の厄介なことは、超希少種として『ぜったいとくべつほごしていせいぶつ』として、全世界で保護されている虫だったりするのです。
 海賊でも人殺しでも、絶対に、ぜったいに、守ってあげなければいけない虫の一つなのです。
 出逢ったが最後。
 なにをされても言われても、安全なばしょに放してあげるか、研究所に持って行って保護してもらうまで大切に扱わなければいけないのです。
 オヤジはいい気になってさんざんしたいほうだいです。
 オヤジ虫をどこかあんぜんな場所まで連れていくか、ヘンタイを通り越して変態してくれて、勝手にどこかへ飛んでいってくれない限り、限界まで…いえそれ以上までに振り回されてしまう、とてもとてもとても…とーっても………こまった虫なのです………。

 そんな迷惑きわまりないオヤジ虫が、ごーいんぐめりー号にあらわれてしまったのですからたいへんです。
 これは……きっと…間違いなく…一騒動あるにちがいないのです……。

 

 

 

 「………………マジかよ……」
 オヤジ虫を一番最初にはっけんしたのは、ごーいんぐめりー号が世界にほこれる、かわいいコックさんことサンジでした。
 倉庫にじゃがいもを取りに来たとき、酒樽のなかからなにやらごきげんそうな鼻うたが聞こえて来るのを運悪く耳にしてしまったのです。
 じゃがいもをカゴに入れようとした姿勢のまま、
 (………鼻歌……?……)
 いぶかしげにうしろをふりむき、大半がゾロのために用意されている酒樽が積まれている一角にしせんをむけました。
 「んらら〜」
 うたです。まぎれもない鼻歌です。
 しかも、酒樽の中から聞こえてきます。
 しかもなんだかすごいごきげんそうなかんじです。
 (……なんで……?)
 酒樽の中から鼻歌なんて、あまりにもシュールです。
 (………罠か…?……)
 いちおうもっともらしいことを考えてはみましたが、
 (…いや…つっても…酒樽から鼻歌なんて…全然意味が解らねェ……)
 かわいいコックさんは今ひとつどうしても納得できずに首を傾げます。
 もしかして、誰か酒樽の中にいるのか……?
 ふと、そんな仮説が頭をよぎって行きました。
 そういえば、ルフィは最初の航海に使った乗り物は樽でした。
 昔を懐かしんで、こっそり入ってみた…とか?
 サンジは、じっと樽をみつめたまま、考えます。
 「おい、ルフィか?」
 いちおう、声もかけてみました。
 「…………」
 酒樽からへんじはありませんでした。
 「………肉、たらふく食わせてやろーか?」
 ごくじょうのさそい文句をいってみました。
 「…………」
 「………………ルフィじゃねぇな……」
 コックならではの見解です。
 サンジは上着のぽけっとからたばこを取り出し、いっぽんくわえて火を着けました。
 「………ふー……っ………」
 いつもより、小さく静かに煙を吹き出しながら。サンジは静かに考えます。
 (…そうだよな。皆が入ってるわけねぇよな…)
 だって、みんなは甲板でおやつのほっとけーきを食べているさいちゅうのはずです。にさんぷん前の話です。どんなに急いで食べたって、食べ終われるような時間はたっていません。まして、樽の中にしのびこむ時間があるとも思えません。
 だから倉庫にはサンジ以外誰もいるはずなんてないのです。
 (………賞金稼ぎか…?)
 いろんな可能性を考えたさいごに、一番物騒なことがあたまに浮かんできました。
 浮かんだら、それが一番しっくり来るような気がしてきました。
 気がして来たら、どんどん間違いないような気分になってきました。
 ごーいんぐめりー号は、わんぴーすを目指してぐらんどらいんをぼうけんしている海賊船です。
 いいこといっぱいしたかもしれませんが、ちょっとは悪いこともしているのです。
 …そういえば、空島ではドロボウまではたらいてしまいましたものね。
 ゾロやロビンやルフィ。
 誰か一人でも捕まえれば、大金持ち。
 運良く三人をいちもうだじんにすれば、超大金持ちもゆめではありません。
 よーく考えなくても、ごーいんぐめりー号は、ねらわれて、とうぜんのふねなのです。
 みんなを守らなければ。
 サンジは、迷うことなく闘う決意をしたのです。
 穏やかだった表情をいっきに引き締めます。ギリリッッ!!っとたたかう男の顔になりました。
 「……誰かいるのか?」
 いつでもケリをくりだせるように、せんとうたいせいに入ったサンジが低く声を出しました。
 サンジは耳を澄まします。

 ………すると……

 「るる〜ん♪」

 確かにごきげんそうな鼻歌が聞こえてくるのです。
 かなりきんちょう感に欠けた感じですが、確かに声が聞こえて来るのです。
 酒樽の中に忍び込んだから、きっと匂いに酔ったんだろう。うかつなヤツだな。サンジはフッ…と鼻で笑います。
 (飛んで火に入る夏の虫…ってか?)
 サンジは全神経を一つの樽に集中させます。
 守らなきゃ。
 サンジは大切な仲間のことを考えます。
 自分の背中を預けて一緒に闘うゾロは、甲板で梅入りほっとけーきを食べている最中です。
 みらいのかいぞくおーは、シロップたっぷりのほっとけーきを食べている最中です。
 ウソップもチョッパーものんびりとおやつを食べている最中にちがいありません。
 ナミさんやロビンちゃんだってそうです。
 この船は、誰一人も失ってはいけない船なのです。
 今、ごーいんぐめりー号に侵入しているらしい誰かに気付いているのはサンジだけなのです。
 闘えるのも、守れるのも、自分一人しかいないのです。

 守らなくちゃいけない。
 
 サンジはいつも考えているように、ごーいんぐめりー号とクルーの皆を守らなければいけないと思いました。
 たとえ、あいてをころしてでも。
 コックさんの気配がみるみるうちに凶暴なものへと変化して行きました。

 「らるら〜ら〜♪」

 場にそぐわないような鼻歌は依然として酒樽の方から聞こえてきます。
 「誰だっ」
 サンジの声が倉庫に響き渡りました。
 すると、さんざんごきげんそうに歌っていた鼻歌が、ぴたりと止まってしまったのです。
 「今頃静かにしてもおせーんだよっっ!そこにいるのはバレバレなんだよ。…隠れてんじゃねーっ!!出てこいっっ!!」
 気配すら消えてしまったかのような静寂な倉庫にサンジの格好良い声がひびきわたります。
 まるで殺し屋のような目付きでサンジは目の前の異質な樽の気配をさぐります。
 いっしょくそくはつの空気がへやじゅうをおおい尽くしました。
 ………すると………

 

 「………ぐー……」

 

 なんと樽の中からいかにも平和そうなイビキが聞こえてくるではありませんか。
 これにはさすがのサンジも怒り心頭です。
 「……コラァッッッッ!!!寝てんなーっっ!!!」
 怒声とともにサンジの踵落とし炸裂です。

 バキィッッッッ!!!!

 倉庫の床までぶち抜きそうな勢いのケリが容赦なく樽めがけてくりだされたのですから樽はひとたまりもありません。はげしい音をたてながら、樽はこなごなに壊れてしまいました。

 ビシャァァァァッッッッ!!

 「うわぁぁっっ!!!」
 途端、お値打ち価格の酒が床一面にぶちまけられたのです。
 絶対に中身はお酒じゃなくって賞金稼ぎだと思っていたサンジは、予想外のけっかにとにかくビックリです。避けるヒマもなかったサンジは、頭からお酒をかぶってしまい、ずぶぬれです。
 とってもきれいな金髪からポタポタとお酒をしたたらせながら、しばし呆然とお酒まみれになってしまった船内を見詰めていました。
 幸いこの船には『ほぞんしょくのかみさま』が宿っているので、大切な保存食は、かみさまの神通力で守られましたが、それでも船内はお酒でびしゃびしゃです。
 木のゆかがみるみるうちにお酒を吸い込んでいきます。
 サンジは、濡れて火が消えてしまったタパコを銜えたまま、しんじられないといった表情で、ゆかの一点をぎょうしします。
 そこには、こなごなになった樽のざんがいのそばで平和そうに酔っぱらってねむっているステテコカラーのオヤジ虫が…………。
 「……………マジかよ………」
 サンジは、賞金稼ぎの方がひゃく倍ましだと思いました。
 ニューブリッジ島からすでにずいぶんと航海はすすんでいます。
 ごーいんぐめりー号のびじん航海士は、次の島まであと一しゅうかんぐらいはかかるっていっていました。
 ぜったいとくべつほごしていせいぶつのオヤジ虫をこのまま踏みつぶしてしまうことは、さすがのサンジも出来ません。
 敵ならともかく、あいてはなんていったって希少せいぶつです。ぜったいとくべつほごしていせいぶつです。
 「……最悪だぜ………」
 サンジがそうつぶやいてしまうのも無理ありません。
 これから最低でも一しゅうかんはこのオヤジ虫のあいてをしなければならないのですから。
 へやじゅういっぱいに広がっているお値打ち価格のお酒の匂いをかぎながら、悪酔いしてしまいそうなコックさんなのでした。

 

 

 

 

 キッチンではごーいんぐめりー号のクルー全員で、とくべつきんきゅうかいぎがひらかれました。
 大きなテーブルのうえには、あたたかいコーヒー(ゾロだけはサンジが特別にアイリッシュコーヒーにしてあげました。いきなはからいにゾロはおおよろこびです)と、サンジとくせいのみかんくっきー(ルフィとウソップとチョッパーは、おやつが二回になったとおおよろこびです)それから、コットンのコースターをおふとんがわりにして、ぜんごふかくの状態でねむっているオヤジ虫が一匹。
 「…運が悪かったわね、コックさん」
 ロビンが溜め息混じりに、でも、めずらしいものが見れたわと、なんだかすこしうれしそうに言いました。
 「お風呂に入るの大変じゃなーいッッ。もーっっ」
 ナミは怒ったようにいいました。
 「…はぁ…でも、無下にも出来ないし」
 「あーオヤジ虫な。こんなのめずらしくもなんともねーな」
 「え?ウソップホント?」
 「おー、あったりまえよーっっ。俺様なんか、オヤジ虫の中でも最も希少な『キングオヤジ虫』を保護したこともあるんだぜっっ」
 「すげーっっ」
 チョッパーが目をキラキラかがやかせると、ウソップはブリッジをしているんじゃないかってぐらい胸を張ってふんぞりかえって言いました。
 「キングオヤジ虫っつーのはなっ、八ぴきそろうと…こうぴょんぴょんぴょんっ……って集まってな、ぼよんっっ!!ってデッカイオヤジ虫に変身すんだぜ。そーすっとな、なぜか頭の上にはりっぱな王冠がのってて、で、キングオヤジ虫って言われてるんだ」
 「へーっっへーっっっ」
 「もーそりゃ、でっかくなるんだぜーっっ」
 「どれぐらい?」
 「…富士山ぐらい…かな?」
 「へぇぇーーーっっっっ」
 ウソップが更に大ウソをつこうとしていると、ナミがきつい一声をかけます。
 「じゃあ、次の島にいくまで、めんどうみてね」
 「ぐっ…いや……ほら……ああっっいけないっ『オヤジ虫に近寄ってはならない病』が……」
 ナミは、ひやあせをかいているウソップから目を離して、ルフィに意見を求めます。
 「んん?いーんじゃねーの?おもしろそうだし」
 ニカッ♪と、わらう、みらいのかいぞくおーにナミはそーくると思ったわよ、っていわんばかりの表情をしてみせました。
 「どーせ、アンタも興味ないんでしょ」
 「まぁな」
 ゾロはおいしそうにコーヒーを飲んで少し眠そうにあくびをします。
 「そもそもコックが買った樽が原因なんだろ?だったらコイツに世話させりゃあ良いだけの話だろ」
 「ゾロッッ!!」
 サンジが慌てて立ち上がりますが、
 「そうね。じゃ、サンジ君お願いね」
 と、ナミが笑ってサンジを制しました。
 サンジはナミのえがおが大好きです。
 「ぐっ………」
 うごきをとめたサンジの間近にかおを近付けて、ナミがとどめの笑顔をみせます。
 「お・ね・が・い・ね」
 「……な、ナミさんのためなら…喜んで」
 引き受けるしかないサンジなのでした。

 みんながそれぞれの持ち場にかえったあと、いつものようにさいごまで残っていたゾロに、サンジはかみつきました。
 「テメェッッ!!なにロクでもねぇことナミさんに吹き込んでんだよっっ。おかげでとんでもないモンの面倒みるハメになったじゃねーかっっ」
 「しょうがねぇだろ。元はっ、つったらてめぇが持ち込んできたんだからよ」
 「うるせぇっっ!!誰の仕込みのおかげで酒切らさねぇ航海が出来てるとおもってんだよっっ」
 「おまえ」
 ゾロはあくびれることなく、サンジに笑ってみせました。
 「んん。おまえだな」
 ナミのえがおも大好きですが、ゾロのえがおはもっと大好きなサンジは、次の言葉がつなげません。
 「ぐっ……っとに……あーっっクソーッッ!!」
 ここがキッチンでなければ、おおあばれしたいところやまやまのコックさんなのでした。
 「…さて、トレーニングでもするか」
 ゾロはいつものマイペースで立ち上がります。
 「んな…待てよっっ」
 「なんだよ」
 「…ホントに俺一人でコレの面倒みんのかよ」
 「だな」
 「『だな』って……メシの支度とかどーすんだよ…」
 「手伝わせりゃいいだろ」
 「どーやってーっっ」
 「さあな」
 ゾロはまったくおかまいなしです。
 困り切ったサンジのまえをスタスタと通り過ぎて、でぐちのとびらのドアノブにてをかけました。
 「…あ、そうだ」
 思い出したようにゾロがふりかえりました。サンジがひしっ…ってかんじにゾロを見詰めます。
 「今夜の見張り、俺だぞ」
 そういって、くちのはしだけちょっと上げて笑いました。
 これは、ゾロの『おさそい』の合い言葉です。
 かわいいコックさんは思わずオヤジ虫のことをわすれて、むねが今夜のでーとへの期待に『きゅー』っとなってしまいました。
 ほんのり頬をあからめるサンジにゾロは柔らかな視線をおくって、キッチンをあとにします。
 『ぱたん』
 静かに閉じられたドアをサンジがぽーっとしたきぶんで見詰めています。

 ひみつのことですが、ゾロとサンジはそうしそうあいのこいびとどうしです。
 この前、ゾロがサンジに告白して、つきあいはじめました。
 おとこどうしの恋なので、なにをどうしたら良いのかあんまり良く分からない恋です。
 でも、おたがいがおたがいのことをこころのそこからすきだと思うすてきな恋です。
 けっこんしてこどもをつくって、家族になってく一般の恋とは少しちがう恋かもしれません。
 でも、決してはなれることのない、たましいがしっかりとむすびついていくような恋です。
 この…こころのそこからわきあがってくるような、はげしくてあつくて…あたたかくて…たいせつな想いを大事に育てて行きたいとサンジは切に願っています。
 きっとゾロもおんなじことを考えています。
 ですが、こまったことに、おとこどうしの恋愛はどうやって育てて行けば良いのか二人は全く分かりません。
 キスだけはゾロからサンジにしてあげたので、関係としては『A』までいけたのですが、それ以上は何から始めれば良いのか全く持ってわからないのです。
 みなさまの良きアドバイスとか、素敵リクエストとかがあれば、もっと展開がはやくなるのかもしれませんが、なかなかないのが現状です。
 ゾロとののうこうなセックスとかそうぞうしていたサンジですが、あくまでもイメージ画像でしかなかったので、具体的なだんどりなんかは、なぞにつつまれたままの状態です。二人の愛はごりむちゅうなのです。
 そうしそうあいになってからは、しばらくなんの進展もできなくて、サンジはとてもなやみました。
 なやんでゾロにそうだんしました。
 困ったことに、ゾロもおとこどうしのセックスの仕方がよくわかりません。
 二人でなやんで、最後はゾロがこたえを出してくれました。
 『出来るところからはじめりゃ良いんじゃねぇか?』
 もしかしたらホモ島なんて島に上陸出来るかもしれません。そしたらそこで誰かに聞けばいいだろう。
 こうして二人はゆっくりと恋愛して行くことにきめたのでした。
 いまは、でーとをいっぱいすることにしています。
 お互いが見張りの番になったとき、いっしょにじかんをすごしたいなぁ…って思う日には『おさそい』をしてでーとをするのです。
 サンジがお酒とおつまみを少しずつ用意します。
 それを海や空をながめながら食べたり、飲んだり、はなしをしたりするのです。
 たまにキスぐらいはしちゃうでーとです。
 ゾロがよく居眠りしてしまうような穏やかなでーとです。となりで穏やかな気分でサンジが一服しながらあたらしいお料理のレシピをかんがえているようなでーとです。
 もうすこしそばに近寄って…キス以上のことが出来たら良いなぁ…とかんじるようなでーとです。
 しんてんするのは、あとちょっとだけ先の二人です。

 クルーのみんなにだったら、二人の仲はしられても良いとは思っています。
 ただ、まだなんとなく…ひみつにしている二人なのでした。

 


 つづく。

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