【子供の味】

いち

 

 ある日、サンジはゴーイングメリー号の甲板で、視界のはじっこで、ぜったいにありえないものを見てしまいました。
 それはとっても小さな…そうですね…普段のチョッパーぐらいの大きさでしょうか…それぐらい小さなものです。
 最初、サンジはあんまり視界のはじっこで見かけたのと、これからチーズケーキの仕上げのそーすに使うみかんを貰いに行くために、ナミさんに会いに行こー(るーん)と、気合いを入れて浮かれていたのとで、『それ』が、あり得ない物だったことに最初は全く気が付きませんでした。

 ナミのところで美味しいみかんを貰ってキッチンに帰る最中、やっとサンジはそのありえないものに気が付きました。


 (…………?…………)


 それは、ちーっちゃい子供でした。
 甲板の上で、大の字になって、でーんっ!!とあおむけになって眠っていました。
 なぜかすっぱだかで、近くにはゾロの服がまるで脱皮したみたいに脱ぎ捨てられていました。トレードマークの腹巻きまで脱ぎ捨てられています。
 何でそんなところにゾロの服が変なふうに脱ぎ捨てられているかも、どうしてそのすぐそばに子供がお昼寝しているのかもサンジには分かりませんでした。
 呆気にとられた表情で、サンジは子供を見つめます。
 とってもふてぶてしい寝姿です。
 ぽってりとしたお腹はその子が呼吸をする度に気持ち良さそうに上下しています。
 ときおりもみじみたいな小さな手が、ボリボリとおなかを掻いたりしています。
 ぱかーっと開いた口からは、なんとも美味しそうで可愛らしい、たらこみたいな舌が覗いて見えます。
 ぴんっ、と、した感じの鼻や、子供なのに大丈夫か?って感じの広さの額。なかなかしっかりした眉毛…。
 マリモみたいなキレイな緑の、短い髪……。
 あれ…?
 「…………え?……ええっ…?…」
 サンジはきれいな青い目をまん丸にして子供をみました。
 「…んー…」
 むにゃむにゃと、こどもは何か良い夢を見ているみたいな顔して眠っています。
 ちーっちゃいおちんちんも安らかそうな感じてす。
 サンジは、手に持っていた大切なみかんを『ボテボテボテッ』と、全部落としてしまいました。
 何度も目をばちくりとさせて、ごしごしと擦りました。
 「ぐーぐー」
 目の前の子供はやっぱり安らかそうに眠っています。
 ゾロが大切にして片時も離さない三本の刀と一緒に眠っています。
 近寄って胸を覗くと…大きな切り傷が………。
 「………」
 人間、想像していないことが起きると、以外にリアクションが小さかったりします。
 頭で理解出来ないからなんでしょうね。
 サンジも、しばらくぼんやりとノーリアクションでその子供を見下ろしていました。
 途中、なんかしなきゃと思い、しゃがみ込んで子供のお腹と頭にそっと触れてみました。
 子供が眠ったまま、表情を柔らかくして、
 「…ふう…っ…」
 と、小さな溜め息をつきました。
 「…………っっ…!!」
 それは、すっごく…すっごく…見覚えのある、寝顔でした。
 「…………ゾロ…?」
 いえ、心の底から信じて…って訳じゃありません。でも、あるいは…もしかして…ひょっとして……………お前ってば…………………?って気分でサンジは子供に声を掛けました。
 「……………んん……」
 子供が顔をしかめてみじろきました。
 サンジはピクリとも動けずに子供を見つめています。
 小さな手を丸めて、ゴシゴシと目を擦って、そのちーっちゃな子供は目を開けました。
 「……んん?…もーメシか…?」
 したったらずのあどけない声で、渋い感じに言いました。
 眠そうに開いた目がサンジを見上げます。
 「どーしたくそこっく?びっくりしたかおして」
 サンジはあまりのことにやっぱりノーリアクションのまま、へたっ…と、そこに座り込んでしまいました。
 そして、震える声で子供の名前を読んでみました。
 「ゾロ…?」
 「んん?」
 やっぱりやっぱり…ノーリアクションのサンジでしたが、気分は口からアワを吹いて白目を向いてしまうような感じでした。

 






 続く。

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