【子供の味】

 

 ゾロが子供になってしまった日の夜、ごーいんぐめりーごうではとくべつきんきゅうかいぎが開かれました。
 「ねぇゾロ、この前の島で、なんかいつもとちがうものとか食べなかった?」
 チョッパーが、小児科のせんせいのような顔でききました。
 「んん?そーだなー」
 ちっちゃいゾロは首をひねって考えます。
 ごーいんぐめりーごうのクルー全員は、ゾロの言葉をまっています。
 しばらくたってから、ぞろは言いました。
 「…コイツ以外のりょうり」
 もみじみたいにちいさくて、ぷくっとしてて、先っちょがちょっぴりももいろのゾロの指が、サンジのことをゆびさしました。
 「でも、それはお前たちも食ってただろう?」
 この前の島は、ログがたまるのが12じかんと言うスピードでした。だからたいざいじかんもとっても短くて、クルーのみんなはごはんを食べた後、いそいでめいめいが買い出しに市場へでかけ、その後ちょっとぐいしかのんびりできませんでした。
 だからゾロが食べたものって言ったら、ほかほか亭の日替わりていしょくと、おもちかえりのコーナーでていくあうとしてきた、でらっくすのり弁当ぐらいなものです。
 みんなとおんなじものしか食べていません。
 「そっかー…じゃあ、なんかいつもと違うこととかしなかった?」
 ゾロはまたしばらく考えました。
 みんなでいっしょにごはんを食べて、その後は、やおちょうじゃんけんでわざと負けてサンジのお買い物のにもつ持ちになって市場でふたりっきりのおかいものをたのしんで、途中お酒屋さんで試飲が出来るっていうからおおよろこびで、おみせにあるお酒をみんな試飲して、試飲おことわりってばっちり張り紙までしてあった、おみせのだいじな『まほうのお酒』シリーズの『こどもびーる』っていうのをこっそり飲んじゃって、それからサンジに『オイっくそまりもっ(v)お前どこほっつき歩いてるかと思ったらやっぱここかよっっ』って怒られて、サンジが市場でえらんできた特選そざいを山のようにもたされて、ちょっと頭にきたけどまぁいいかって我慢して、一旦にもつをおろしにふねに戻って、サンジがくるくると手際よく買って来た食材をかたづけて、『なぁなぁ面白いモン売ってたぜ』って、変わった味のチョコを食べさせられて『コレさ、酒飲み過ぎた時にアルコール分を分解するせいぶんがはいってんだってさ』って言われて、『ま、いくら飲んでもおまえの場合、飲み過ぎってこたぁねーか』って笑われて、ちょっとムカついたけど、笑った顔がいつものニヒルな感じじゃなくて、お休みの日ののんびりしたかんじで、サンジ本来のかわいらしさも余す所無く表れててとても良かったから(ま、いっか)って思ってたら、サンジがもじもじとなにか言いにくそうにしてました。
 『んん?』って次の言葉をうながすと、サンジがちょっとかおを赤くして『…なぁ、今日の買い出しさ、思ったよりやすくしいれられたから、まだ少し予算がのこってんだけどさ…あの…さ…俺、とちゅう良さそうなホテルみかけたんだよな………なぁ…ちょっと…行かねぇ…?』なんて、ゾロのはーとを一発でうちぬくようなお誘いをされました。
 もちろんゾロは、『たまには別の場所もイイかもな』と、笑ってサンジの誘いをうけました。
 短い時間だけど、かんきょうが変わっていたせいか、ふたりともとてもこうふんして、充実したセックスが出来ました。とくにサンジは、声が出せるのがよかったらしくて、いつもいじょうにみだれていました。
 それからみんなと合流して、出航。
 ちょっとサンジがよろよろしてたので、チョッパーにしんぱいされたけど、なんとか上手くごまかしたんじゃないかと思います。
 「………別に」
 ゾロは島でのできごとをおもいかえしながらチョッパーにおへんじをしました。
 「うん。なにもかわったことはしてねぇな」
 「そうかー……じゃあ、血液検査してみるか……」
 びょうきの原因が見付けられないお医者さんのようなこまったかおをしながらチョッパーが言いました。
 「ゾロ、後で血とらせてね」
 「ああ」
 ゾロはすなおに頷きました。
 「ねぇ、ロビン」
 「なぁに?」
 「ロビンはこういう症例とか知らない?」
 「そうねぇ…」
 ナミに聞かれて、ロビンは頭の中の文献をひもときます。
 「………いろいろあるけれど…大抵はなにか体内に毒素を取り入れたことが原因だから…剣士さんは特別変わったものを口にしていないんだから……後は…呪詛とかかしらね…」
 「じゅそ?」
 ナミは首をかしげてききました。
 「呪詛って…呪いの呪詛?」
 「ええ」
 「どうしてゾロが?」
 「そう。それが分からないわ。この島の禁忌を犯したとかそういったことなら話はべつだけど…ねぇ剣士さん、あなた、なにかした?」
 ゾロは、んーん、と、首を横に振りました。
 「別になにもしてねー」
 ふわぁぁぁ……と、大きなあくびをして、ゾロはねむそうに目をこすります。
 「ちょっとゾロッ。アンタのために会議してんのに、なに眠くなってんのよっっ」
 ナミが怒った声を出すと、
 「しかたがないよ。身体が子供だから、体力もそんなにないんだよ。船って乗ってるだけで体力使うから。ね、ゾロ、疲れたら眠ってもいいからね」
 チョッパーが立ち上がりかけたナミを制してゾロにやさしく言いました。
 「んん…」
 ゾロは、ちょこん、ってかんじでいすにすわったまま、目を閉じて、そのまま眠り始めます。
 「…ったく…もーっ……」
 ふくれっ面のナミですが、すかすか眠るゾロがあんまりかわいい子供なので、今ひとつ本気で怒ることができません。
 「しょーがないんだから…」
 じぶんの肩にかけていたショールをとって、優しくゾロをくるんであげると、
 「はい、サンジ君」
 と、言って、ゾロをサンジのひざの上にそっとおきました。
 「えっ?ええっ」
 サンジが思わずナミさんのかおを見ると、
 「いっくら子供って言ったって、ゾロを抱っこするのは嫌よ。しっかり面倒見てあげてねっ」
 「あ…え…っと…」
 「お願いね」
 はくりょくのある笑顔にサンジは「はい」と、素直に頷くしかありませんでした。

 きんきゅうかいぎはそれから一時間ぐらいつづけられました。
 ゾロが突然こどもになってしまった理由をみんなでいっしょうけんめい考えました。
 でも、憶測のいきをでないので、結局しんじつはわかりませんでした。
 「意外とこどもびーるでものんだんじゃねーの?」
 ウソップが途中でそんなことを言いました。
 「こどもびーる?」
 「俺の育った村であったんだよ。『へんしんこどもびーる』って言ってさ、飲むと三さいのからだになるんだ。ほっときゃあ一週間ぐらいで元に戻るらしい。金持ちの道楽用の薬なんだ。…まぁ、ゾロが飲む理由もねーか…」
 「そうね。こんな場所でこどもになったら、命があぶないものね」
 「ね、みんな他に思い付くこととかないかしら」
 「うーん……」
 こうしてしんじつは、憶測のなかに埋もれていってしまうのでした。


 とにかくしばらくようすを見ようってことで話がまとまり、会議は終了しました。
 めいめいが各もちばに戻り、夕食の支度のためにサンジと、ナミのショールにくるまれて眠るゾロだけがキッチンに残りました。
 テーブルの上にゾロを寝かせ、すぐそばに坐ってジャガイモのかわを剥きながら、サンジはゾロのねがおを黙ってみつめます。
 「………ゾロ……」
 呟いたサンジの声は、小さく心細げなものでした。



 続く。

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