【窓越しの掃除屋】

13

 こんな細身の身体のどこに力を隠してるのか。




 「…離せ…っ…!!離せぇッッ!!」
 体重を掛けて手足を押さえ付け、身体の自由は全て奪ったはずなのに、
 「…クッ…!…」
 呼吸をする瞬間の僅かな乱れに力で押し返そうになる。
 渾身の力で掃除屋は俺から逃れようと暴れる。
 俺が、コイツの手を握ったことが合図だったかのように。
 「離せっ!!」
 固く瞳を閉じて。
 少しでも俺から身体を離そうと。
 まるで処女だ。
 本気で俺に抱かれることを拒絶しようと必死に足掻く。
 近くで見ているせいだからなのか、左官屋の連中にヤられていた時よりもパニック起こしてる感じだ。
 たった…俺一人を相手に。

 (……そんなに…嫌なのか…?)

 あの日みたいな、ギリリと睨みつける視線も無い。
 力に押し切られようとも、屈しない意思の強さも見付けられない。
 「イヤ…だ…ぁっ……離せ……っ……」
 狂ったように足掻き暴れ、俺の力に叶わないのをどこかで感じ、怯えて……怯える。
 力一杯目を閉じて。
 ただ闇雲に逃げ場を探す。
 「……大人しくしろ…っ……!!」
 「……ッ………」
 怒鳴りつければ身をすくませる。
 「………………」
 お前…俺に殺されると思ってンのか…?
 押さえ付けた細い手首のしっかりした筋が暴れるたびにビクビクと激しく動くのを直に掌に感じる。
 それだけでも…拒絶されてるのが…分かる。
 何でだよ。
 俺はお前が好きなんだぜ?
 そんなに拒絶されたら俺は…

 お前を壊してでも欲しくなるじゃねェか…。

 お前が必死で逃げんなら、こっちも死ぬ気で奪うぞ。良いな。
 絶対手に入れてやる。
 もう手段も選ばねェ。
 「…指の骨…砕くぞテメェ」
 「!!」
 今まで固く目を閉じていた掃除屋の目がパカッと開き、驚いたように俺を見上げた。抵抗まで止まる。
 バカ正直な反応に、思わず口の端が緩んだ。
 手首を掴んでいた手を離し、素早く指を絡ませ合うように両手の手を強く握る。「……っ!!…」掃除屋は、弾かれるよう繋がれてしまった自分の手を見詰め、その隙に顔を近付けた俺を威嚇するように視線を戻した。
 「…すっかり酔いも醒めました…って顔だな」
 「……どうしてお前ーーーっっ!!っあああっっ!!」
 最後まで言わせず、かなり力を入れて手を握りしめる。
 自分の太い指の骨に、力はあるが繊細な、細い指の骨の感触を感じる。
 ああ…このまま砕き握りてェ。
 咄嗟に頭に浮かんだ欲望を腹の底に力尽くで捩じ込み、ギリギリのところで力を止める。
 「うう…うっ」
 掃除屋は、動きの止まった俺の様子を暫く伺い、そして一気に逃げ出そうともがく。
 「うあああっっっ!!!」
 ほんの少しの力を加えるだけで心底痛そうに顔を歪ませる掃除屋の表情を間近に見る。
 腰の辺りがゾク…っと、期待に鳥肌を立てた。
 「力、抜けよ…」
 「…………クソッ……」
 一度だけ、怯えた顔がいつも現場で見せている固くてキツく冷たいモノに変わったが、そのままぎこちなく目を閉じると、掃除屋は観念したように一切の抵抗を止めて力を抜いた。
 「…よし………いい子だ………」
 瞬間見せた子供のように怯えた仕草に、俺は昔コイツがバラティエで起きた事件で付けられた傷の深さを漠然と感じた。
 抱けば、コイツの傷はもっと深まる。
 だが…それが…………なんだって言うんだ?
 何を引き換えにしても良い。
 俺はもう掃除屋がどうしても欲しい。
 心が欲しい。身体も欲しい。
 身体が欲しい。欲しい。欲しい。
 出来ることなら両方欲しい。
 友達なんてヌルい関係ならいらない。
 心と身体。どっちか一つしか俺のモノにならねェっつーんだったら…



 俺はお前の身体が欲しい。



 俺は……窓越しにレイプされていたお前の姿に惚れたんだ。…現場で男達に激しく犯されていたお前の姿に欲情したんだ。
 あの日からずっと…お前のエロい姿に恋をしていた。








 ………………。





 …ああそうか。今分かった。
 お前はくいなとは全然違うよ。
 全然だ。
 何一つ同じモンがねェ。
 性別まで違うときた。
 お前に恋すりゃ、くいなを思い出させるところが一つもない。そばに居ても、笑い合っても、ケンカしようと。
 セックスしようとも。
 何をしても。
 あいつを思い出す理由がねェ。
 一人でいるのが寂しくて、ずっと探し続けてた。
 アホみたいに…誰にでもくいなの面影を重ね付けようとした。
 辛うじて重なった『何か』に勘違いして、俺は相手をくいなと思った。
 思って俺は相手に無理矢理恋した。
 何でも良い。ただ一緒にいたいと思う気持ちだって、俺にとっては立派な恋だ。
 何だって良い。
 俺はくいなと恋がしたかった。
 目を閉じて、耳を塞ぐ。
 記憶の底で笑う、くいなを探す。
 思い出せないあいつの姿をそれでもぼんやりと輪郭を捉えて目を開ける。
 『…どうしたの?ゾロ』
 似ても似つかない女が覗き込むように俺を見ている。
 咄嗟に女を突き飛ばす。
 くいなはどこにも見付からなかった。
 俺は唯一、くいなを愛した。
 消えたくいなを探し続けた。
 死んだくいなは…どこにもいない。


 『……ねぇ……くいな…って……誰…?』


 結局…誰もくいなじゃなかった。
 






 「…脱げよ…」
 左手だけを自由にすると、掃除屋は引き裂かれたシャツを肩から外し、そのまま躊躇いがちにジーンズのベルトに手を掛け、外した。
 『ジジ…』
 ジーンズのチャックを下ろした左手を掬い取るようにして、指を絡め自由を奪い、右手を離す。
 「………」
 無言で右の肩からシャツを外して、俺を見上げる。
 すっかり腹を括ったように、左官屋達を睨み付けてたアノ目付きで俺を睨んで口を開いた。
 「……手…離せ」
 「…………」
 ゆっくりと、絡めた指を解いて離した。
 掃除屋は俺の下から逃げ出さずに、じっと俺を睨み続ける。
 左手を固く握り締めると…掃除屋は大きく息を吸い込んでジーンズに両手を掛けて軽く腰を上げると、下着ごと脱ぎ去った。
 「……で?」
 「……俺の服も脱がせろ」
 もう顔色一つ変えずに、今だ大切にしている両手の指を器用に動かしながら、俺のズボンのベルトを外す。
 俺は掃除屋を見下ろしたまま着ていたシャツを脱ぎ去った。



 なにもかもちがう。
 髪の色も。
 肌の色も。
 瞳の色さえまるで違う。
 くいなは…
 くいなは……
 少しもお前と重ならねェ。
 笑い方も。
 話し方も。
 生き方も。
 考え方も。
 性別さえも。


 だからこいつはくいなじゃない。
 




 だったら、これは恋じゃない。




 アホか俺は。
 少し考えれば直ぐに分かったことじゃねェか。

 

 左手を掃除屋の顔の直ぐ側につき、覗き込むように顔を近付けた。
 見上げる視線は相変わらずキツいが、こうして間近まで顔を寄せると、怯えたように瞳が揺らいでいるのが感じ取れた。
 左手で髪を掴む。指の腹に触れた細い髪は思った以上に柔らかかった。
 「何だ。腹、括ったんじゃねぇのかよ?」
 そう言って、掴んだ髪を引っ張り顔を右に引き倒す。
 剥き出しになったのは白い首筋。顎のラインと、形の良い耳。
 吐息で一度身体を震えさせてから、覆い被さるように歯を立てた。
 「あうっ!!」
 痛みに身体を大きく跳ね返らせる。
 それで良い。
 どんな声でもどんな反応でも出させた方がやり易い。
 案の定、また噛み付かれるかと神経を首に集中させた掃除屋は、自分の性感帯をバカ正直に教えてくれた。
 舌全体で脈打つ部分を舐め上げる。
 「…っ……」
 耳の付け根の骨で浮き上がっている部分。
 「…うっ…っ」
 背中へと向かう筋肉に沿って強めに舌を動かせば、
 「…っ…あっ…」
 腰まで浮かせて反応を見せた。
 ここが感じる奴は背中に弱点が多い奴がほとんどだったのを思い出して、身体を俯せにさせると、
 「テメッ……ケツが欲しいんじゃねーのかよっ」
 と、焦ったような声を上げた。
 返事もせずに肩甲骨から首筋に向かって舐め上げると、
 「んっっ!!」
 掃除屋は、シャツを引き寄せ顔を埋めた。



 バラティエの襲撃事件。
 人質にされた副料理長は、至る所に暴行と強姦の痕が残されていたって話だ。
 傷付きながらも開発された身体は…きっと今でも癒されはしない。



 弱点の滑らかな背中と形の良い小さなケツを晒して喘ぎを隠す。
 腰を浮かせて喘いだ場所には紅い印を付けていく。
 掃除屋は、指先の血の気が無くなるまで強くシャツを握り締め、気を抜けば揺らし出そうとするケツの動きを必死で押さえる。
 「…何我慢してんだよ」
 感じてねェ訳…無ェんだろう……?
 伸しかかるようにケツの上に跨がり、自分のチンコを相手のケツの隙間に擦り付けながら、体重を掛けて掃除屋の腰を畳に押し付け左右に揺らした。
 「…う…あっ…!」
 掃除屋のケツが畳の擦れる刺激から逃れようと跳ね上がるが、俺の体重に押し返される。
 俺のチンコは掃除屋のケツの隙間に喰い込んで、痺れるような快感が走り抜ける。
 セックスの動きで腰を揺らして自分のモノを固く勃ち上がらせながら、強く…強く押し付ける。
 ケツの割れ目に、勃起していくチンコのデカさを分からせるように擦り付けると、期待か恐怖か…掃除屋のケツの穴が何度も何度もヒクついた。
 カリ先が、何度か掃除屋のモノに擦り触れる。
 その度に、掃除屋が切羽詰まった喘ぎをシャツの中で漏らす。
 「…声…聞かせろよ」
 敏感な肩口に舌を這わせて喘ぎを誘った。
 「んんっ!!」
 完勃ちのチンコの先に染み出る汁をケツの穴に塗り付けながら、その下に覗く亀頭に弱く…強く擦り付ける。チンコどうしが触れ合うと、指とも口とも違う熱い刺激に、
 「うっ…」
 思わず俺まで喘ぎが漏れた。
 股間で感じる掃除屋のケツの揺れが、自ら快感を引き起こそうとしている動きに変わっていくのに気付いて、ガキみてェに興奮させられた。
 次第に快感を探して貪り始める掃除屋の姿は、殺人的にエロかった。
 見下ろせば、息を乱して理性を失い始めている。
 ったく…媚びの一つも売ってねェのに…このエロさだ。
 「……チッ…」
 引き延ばそうにも…こっちが保たねェ…。
 腰を逃がすと、無意識に俺のチンコを追いかけて、小さなケツが突き出すように畳から離れた。その隙を突いて素早く左手で掃除屋のチンコを握る。
 「はうっ!!」
 飛び上がるようにシャツから顔を上げて声を上げる。
 俺は身体全部を密着させると、右手を掃除屋の胸の下に潜り込ませ、ホールドするように左の肩をしっかりと掴んだ。
 そのまま耳元に唇を寄せ、
 「…足広げろよ」
 囁くように呟きながら、薄く柔らかな耳に下を絡ませ、歯を立てた。
 「あうっ…はぁ…あっ…クソ…ッ…」
 エロい喘ぎの合間に悪態を吐くのが掃除屋らしい。らしくて、耳の穴の中に、ねっとりと舌を差し込んでやった。
 「アアッ!!」
 視界の直ぐ側で、喘ぐ口から舌先が覗いているのが見えた。
 ヌルつき始めている掃除屋のチンコは、それなりにデカさも張りもある。女を喜ばせるには俺みたいにバカデカいモンよりも、コレぐらいが理想だろう。
 「何だよ。結構でけェじゃねェか」
 言いながら自分でオナニーする時みたいに、さわさわと棹を扱いた。
 「うっ…!」
 息を詰め、背中を丸めて快感の衝撃に耐えようとしているところを畳み掛けるようにして親指の腹を使って先端を弄る。
 「うああっっ」
 「足広げろよ」
 「………嫌だ…っ…ああっ」
 尿道口を引っ掻くように刺激してやった。
 「…何だココが好きなのかよ」
 「うあ…っ」
 「良い反応してんじゃねーか…」
 「うるせェ…っっ…んっ…」
 「ほら…足広げろって言ってんだろ」
 キツい口調で命令しながら耳朶に齧り付くと、跳ね上がるように反応し、舌打ちしながらも身体を震わせて股を広げた。 
 「…上出来だ…」
 勃起しまくってる棹の芯の固さを確かめるように指に力を入れて全体的に素早く扱く。
 掃除屋の身体は感電したようにビクつく。
 「はあっ…はあっ…っ…はあっ……あ…っ…」
 呼吸の乱れた掃除屋は、頭を仰け反らせたり、ガクッっと俯いたりしながら俺の乱暴な愛撫に耐える。
 「あっ…あっ……あっ…あうっ……ううっっ……」
 リズミカルに扱けば直ぐにイクところまで追い詰めては根本を掴んで動きを止めた。
 イキそびれたチンコは、我慢汁を大量に滴らせながら震え続ける。
 何度もわざと外してやれば、その度に苦しそうに身悶えた。
 快感を欲しがって、ガクガクとイヌみてぇに自分からケツを振る姿がたまらない。
 肩を掴んでいた手を離してタマを揉む。
 「ほら、もっと広げろよ…」
 掃除屋は、泣きそうな悲鳴を上げて更に足を広げる。
 掌を汁でヌルヌルに濡らして包み込むようにして亀頭を擦る。
 強い刺激が好きなのか、この刺激には身体がひどく悦んだ。
 頭を振り乱しながら呼吸を荒げて、激しくチンコを手に押し付けてくる。
 無茶苦茶に棹を擦る。追い詰めては根本を握って射精のチャンスを奪ってやった。
 本当に辛そうに身体をくねらせ身体を鎮めようとするものの、上手く行かないらしい。ケツをモノ欲しそうに揺らして抗議の喘ぎを漏らす。
 セックスしまくってる最中の女以上に掃除屋のエロい喘ぎに、理性はとっくに見失ってる。
 乱れる姿を見るだけでチンコの先から涎が垂れた。
 一体どれだけ焦らしただろう。
 「…テメェ…っっ!!……ううっ……うっ!!……いい加減に…っ…しろよ…っ……」
 言葉に力も入れられないような状態の中、とうとう掃除屋は音を上げた。
 喘ぎに震えて濡れる語尾を必死で隠して掃除屋が言う。
 「テメェ…の…やり方は…っ…中途半端で…イけねェ…ん…だよっ」
 それはまるで強気な懇願だ。




                       続く。

 続く。

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