【窓越しの掃除屋】
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…ダメだ…我慢出来ねェ…。 セックスしたらそれで終わりだ。 何度も自分に言い聞かせる。
少しでも一緒にいたい。 理由も理屈も見付からねェ。 それでも、出来る限り掃除屋の側にいたかった。 今日のセックスは、終わりを意味する。
だから少しでも抱くのは後に伸ばしたかった。 「イかせてくれよ……」 なのにこいつは苦し気に懇願してくる。 俺は言葉を無視して無理矢理笑った。
「だったら自分で扱いてみろよ」 強引に掃除屋の右手を取って自分のチンコを握らせた。 顔を真っ赤にして俺の顔を身上げる。 信じられないって顔して俺を睨む。
「オナニーも出来ねぇのか?」 挑む気持ちでそう告げた。 「……クソ野郎……っ……」 良く見やがれ!と、吐き捨てるように言うと、ほっそりとした白くて長い掃除屋の指が、自分のチンコをしっかりを握り締め…俯せで、ケツだけを高く突き出し…ケツの穴まで良く見えるような格好で。
俺の目の前でオナニーを始めた。 「いい恰好だな」 「…ウルセェッ!!……んっ…」 強がりながらも手は止まらない。そのうち、俺の存在を忘れたみてェにオナニーに没頭し始めていった。
「うっ…あっ……ううっ…」 女同様、男も自分が一番感じる場所を知っているのは自分だ。 的確に的を押さえたように、自分を攻める。
一度快感の波に乗ってしまえば、 「…うっ……」 直ぐに自分の世界の中だ。 ここまで来たら、男の身体は止められない。
誰が見ていようが関係ない。 掃除屋は自分の世界に完全にダイブするしか道はない。 「あっ…!…っ……ああっ!!」 切羽詰まった声を上げながら、俺の目の前でとんでもない姿を晒す。
暫く経って、体勢が悪いのか、俯せの姿勢から扱く手は片時も休めずに、身体を反転させて仰向けになった。 「それがいつもの姿勢か?」 「…………うるせぇ…っ」
「良い眺めじゃねェか」 「…っ………」 俺の視線から逃れるように目を泳がせながらも大きく股を広げて股間を晒し、両手でタマと棹を刺激しまくる。
いつもしている格好だからか。それとも俺が見ているって言ういつもと違う環境だからか。 直ぐに反応が変わり始めた。 「はぁっ…はあっ…はあ…っ」
熱に浮かされたような表情に変化して行く。 例え俺と視線が合っても、オナニーの手は止まらない。 掃除屋の腰が浮き、大きく揺れる。
「…ふっ……」 「……っ」 俺は思わず生唾を飲み込んだ。 現場で野郎共と見せあったオナニーなんて目じゃない。 女にさせるオナニーとも訳が違う。
もう……無茶苦茶に乱暴したくなるような凄まじさだった。 「…み…見るな……」 「厭だ」 「…っ…………」 暫く躊躇うようにしていたが、掃除屋はそろそろと左の指で自分の乳首を弄り始めた。
「んっ…ふ……う……っ……」 感じているのか、喘ぎがみるみる濡れていく。 下手なエロビデオの女よりオナニーが上手い。見ているこっちがヤバくなりそうだ。
掃除屋は、おかまい無しに続けている。 終いには俺の目の前で掃除屋は左の中指で自分のケツの穴を弄り始めた。 「あっ…う…」 気持ち良さそうに中指を出し入れする姿を見て…もう……何がなんだか分からなくなった。
「うあっっ!!」 飛びかかるように掃除屋に覆い被さり唇を貪った。 反射的に舌に絡み付いてきた、掃除屋の舌を夢中で舐める。 細い腰を両手で掴んで股の間に身体を捩じ込む。
掃除屋はオナニーの余韻のまま腰を揺らして、俺のチンコに自分のチンコを擦り合わせた。 「……っ…」 思わず爆発しそうになって、咄嗟に身体に力を入れた。
「…クソッ…早くしろよ…っ」 快感に半分蕩けながらもしっかりと俺の目を睨み付けながら、掃除屋は、強請った。 これ以上の我慢はもう無理だ。
俺は指先で掃除屋のケツの穴を探し、そこに自分のチンコをあてがった。 「うっ…痛……っ」 我慢汁に濡れたケツの穴は、十分に受け入れられる状態だって言うのに俺のチンコを拒んだ。
締まりの良いケツには、俺のチンコはデカ過ぎた。 だが、もう止まらない。 今更後には戻れやしない。 「力抜いてろ」 返事も聞かずに、そのまま半ば強引にケツの穴に突き立てた。
「ーーーーっっ!!!」 身体を限界まで仰け反らし、悲鳴の声も上げられない姿を視界に捉えながら、狂ったように腰を突き進める。 喰い千切りそうな勢いのケツの締まりをこじ開けながら奥へと突き立てると、ギュギュッ…と、中の肉を押し広げてチンコが進んで行くのを感じた。
半分以上ケツに埋まると、後は飲み込まれるように奥に入って行く。それだけでイきそうになる程気持ちが良かった。 何よりも、使い回された男のケツとは全然違う圧迫感に一瞬で溺れた。
「……っ…スゲェ……っ…!!」 抜き入れする度、ケツの穴が女以上に喜ばせてくる。秒殺されて、たった数分で、俺は大量の精液を中に打ち撒けた。
「うああっ!!!」 身体をずり上がらせて逃げようとする掃除屋を捕まえる。 「逃がすかっ」 俄然動きがスムーズになった中を改めて深く抉った。
「ああっ!!」 グシャグシャと濡れた音を立てて、ケツの穴から俺の精液が溢れ落ちる。 直ぐにチンコは勃起した。 こいつのケツに突っ込んでるんだと考えるだけで、おかしいぐらいに頭も身体も興奮してくる。
角度を変えて突き立てる。 大きく何度もグランインドさせる。 「テメェ…ッ…どこ…がっ…感じんだ…よっ…」 奥の壁にブチ当てるように中を抉る。
掻き回すように内壁を刺激する。 ブッ壊すような勢いで掘り続けると、突然掃除屋の目が見開かれた。 「あっ…あっ…あっ……ああっ……ああっ!……」
冷たかった掃除屋の身体が信じられないぐらい熱くなった。 「……ふっ…ハッ…ハアッ……ハアッ……ここかっ…」 「アアアアッッッ!!」
苦しそうに、快感の波に溺れて行く。 何かを…おそらく昔の事件のことを思い出すんだろう…時折顔を恐怖に歪めながら。 子供みてェな顔して泣きそうになりながら。
時折目をこじ開けて、相手が俺だと確認しながら。 それでも記憶に翻弄されてゲロ吐きそうになりながら。 ……最悪に……最高だ……。
身体の下に、ケツで感じる掃除屋が、いる。 「………感じるか…?」 返事も出来ずに掃除屋が喘ぎ声を上げる。
ガーッッ!!と腰を揺さぶりながら欲望のままに突き上げれば、俺の下で掃除屋が、痛みと快感がグチャグチャに混ざった顔で、突き刺されたケツの感覚を必死で追いかける。
最初ツボみてェに感じた穴の中も、これ以上はねェってぐらいにデカくなった俺のチンコで一杯になった。 強く柔らかく凶暴な肉が、俺の欲望ごと全部、喰わえ込んで離そうとしない。
キツイ口元は、今にも喰い千切りそうな勢いだ。 こんなセックスは初めてだった。 便所代わりのセックスじゃねェのに、欠片も相手を想いやる余裕が持てない。
真剣勝負だ。 気を抜けば、こっちが喰われる。 まるで本気の喧嘩と同じだ。 乱暴にすればする程深みにはまって、抜け出すことも容易じゃ無い。
抉っても掻き回しても、狂ったように腰を振っても仕留められねェ、無限の地獄だ。 殺意にもにた欲情がだけが際限なく俺を動かす。 これがこいつとの最後のセックスになるんだったら…
全身を強ばらせて痙攣するようにしてイク掃除屋を見ながら、いっそこのまま死ねば良いと…本気で思った。
………違う……… ……これは……恋じゃない。 動物じみたセックスの最中に、頭のどこかで声が聞こえた。
何一つ…くいなとこいつは……似ていない。 なのに……どうして俺はこいつとセックスしてるんだ……?
セックスってこんなもんなのかよ…… 「はぁっ…あっ……っ…あっ……あっ…あっ……」
辛いだけだって言うのに…… どうしてこんなにこいつとセックスしたい? 「……っ…!!……あっ!!……テメ…っ……ゾ…ロッ…!!……ああっ!…も…っ…いい加減に…しろ…っっ……あ…頭がおかしく……っ…な…る…っ!!!」
なんでこんなに感じさせていることが……辛くて… ………嬉しい……? 追い上げてイかせて、また追い上げる。
喰い付かれてイかされて、また喰い付かれる。 お互いの精液でドロドロになりながらも…まだ欲しい。 途中見付けたポイントに掃除屋が涙を流して悦んでも、終わりに出来ない。
弾かれたように感じた場所で、全身を痙攣させるようにしてイかせても満足出来ない。 快感が苦痛に変わって来ても、終わりに出来ない。 撃ち出しても撃ち出しても勃ち続ける。
終わりにするのが怖いから。 今だけは…一人じゃないと本能が感じた。 理由は解らねェ。
ただ、このセックスは本物なんだと、何かが思った。 サカるような欲望が過ぎると、身体の底からイかしてやりたいと本気で思った。 ケツの奥の右側をゆっくり大きく突き上げると、どんなにぐったりとしていても感じ始めて行くのに気付いた。
焦らすようにゆっくりゆっくり味あわせれば、掃除屋は安心し切った表情で快感に意識ごと飲み込まれて行く。緩やかに昇り詰める掃除屋の顔を見るだけで、腹の底から暖かくなるような気がした。
漏らすように精液を垂らして静かに深く達する姿を飽きること無く眺め続けた。 掃除屋はやっぱりどこから見ても男に間違いなくて、くいなとは似ても似つかない。
だからこれは恋じゃねェのに……。 このセックスが終われば、もうこいつとは会うことはない。 その覚悟で一線を越えた。
最初で最後。 分かって抱いた。 左官屋のバカ連中と大差ねェ。 ただ、掃除屋の身体がどうしても欲しかった。
「……も……勘弁…してくれ……よ……」 俺にボロボロにされた掃除屋が懇願する。
(…恋じゃねぇのに……) 胸の辺りがギリギリと痛んだ。 この感情は……一体……何だ……? 一緒にいたいと今更思った。
このまま死ぬまでセックスしたいと……本気で思った。
目を開けると一人だった。 セックスの後、気を失うように眠りに落ちた掃除屋に、買ったばかりの布団を掛けた。
側で見るのは最後だと、眠るつもりは無かったが、気付けば朝になっていた。 「……………」 裸のまま、何もする気が起きなかった。
空っぽの布団をずっと眺める。 ああ…また一人になった。 だがそれも自業自得だ。 後悔はしてねェ。 ……ただ、苦しいだけだ。
今度こそ泣くかと思ったが……結局涙は出なかった。 ふと、昨日組の監督と交わした約束を思い出した。 「…詰め所の撤去…か…」
午前中に終わらせる約束だった。 のろのろと昨日脱ぎ捨てた服を引き寄せて着る。動く度にザーメンの匂いが鼻についた。 『トゥルルルルル…トゥルルルルル…』
携帯の音に気持ちがざらつく。 暫く動くとこも出来ずに携帯電話を睨み付けていた。 電話はいつまでも呼び出し音を鳴らし続ける。 「……チッ…」
電話を取ると相手はルフィだった。 『よぉ』 「………おお……」 『んん?どうした?』 「……いや…別に」
感が良いのか悪いのか今一つ掴めない男は、ん、そうか…と、言うとそれ以上追求してこなかった。 『それより今日、組の詰め所の撤去あんじゃねーか』
「ああ…」 『搬出のトラックが十一時に入るから、間に合わせてくれって監督のおっさんに頼まれた』 「いつ?」 『昨日だ』
「お前、そんなこと言わなかったじゃねーか」 『おお悪りィ悪りィ』 受話器の向こうでまるっきり健全なガキみてェに屈託なくルフィが笑う。
『言い忘れた』 「…おまえなー……」 俺一人しかいない四畳半の部屋の中、携帯でルフィと仕事の打ち合わせをする。 朝の待ち合わせ、作業行程、問題点。
『んん…じゃ、そーいうことで良いな』 「おう」 良くある朝の一時。 窓を開けて外の空気を入れる。 重い空気が冷たく清潔な空気と入れ代わって行く。
一人きりの朝。 …当たり前だ。俺は一人暮らしだし。 ずっと一人で……これからも独りだ。 何も、今日に始まったことじゃねェ…。
『ゾロ』 「んん?」 『間に合わせるぞ』 「…おお」 男同士の恋愛なんて…あり得ねェし。
掃除屋には…悪いことをした。 謝るチャンスも…もうねェか。
「………はは…っ……」 『どうした?』 「いや、何でもねェ」 『…そうか。じゃ、後でな』 「ああ…」
切った携帯をデイバッグに放り込んだ。 「………さて、行くか」 何となく口にしてみて立ち上がった時。 『それ』に気付いた。
(………………?………………) 畳の上に落ちている、見慣れない定期入れ。 拾い上げて中を見ると、月島駅までの半年定期と、折り畳んだ千円札と、掃除屋の免許証が入っていた。
「……………っ…」 俺は、昨日が掃除屋の誕生日だったことを知った。
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