【窓越しの掃除屋】

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 ゾロに付けられた、身体中のキスマークが全部消えるまで、俺は住んでるアパートから一歩も外に出ないで過ごした。
 別に銭湯に行く訳でもないから見られる心配もないし、見られたところで、まさか男に付けられたなんて思うヤツもいないと思う。
 でも、とにかくキスマークが身体に残っているうちは、外に出るのは絶対に嫌で、ずっと部屋に籠ってた。
 一週間。
 不便に感じることも無かった。
 食うのも困りはしなかった。
 ガキの頃、海で遭難して以来、とにかく保存食はアホかっつーぐらいストックするようになったから、食品棚には食品がギチギチに入ってる。小麦粉と調味料があれば、基本的には何でも作れる。
 元々そんなに食える方じゃないから、なんなら二、三日ぐらいだったら食わなくても平気。つーか、もっと長い間何にも食わなくてもどーにかなる。

 部屋中掃除して過ごす。
 普段掃除しないような場所から始めて、そのうち仕事で使ってる薬液まで使い出してあちこち磨き始める。
 「…結構キレイにしてるつもりなんだけどなー…」
 サッシの溝なんか砂が固まってガチガチになってた。
 「……ま…家じゃ本気で掃除もしねーってか」
 出来るだけ時間を掛けて掃除して。研磨剤まで使って磨いた。
 そこから始まって、壁から天井から柱も磨く。
 思ったよりヤニで汚れてて、掃除しがいがあったかな。
 家具も磨いて、ついでに模様替えもやってみた。
 三日はそれでヒマを潰せた。

 久し振りにパンを作ってみたり、うどんを打ったりしてみた。
 買った魚とチーズを薫製にしてみたり、スープストックを作ったりした。
 味は上出来だったけど、一人で食っても楽しくなくて、真空パックにストックしたまま冷蔵庫の中に仕舞ったままだ。
 必要以上に眠ったり、ダラダラした。
 ぼんやり何も考えないでみた。
 タバコの量を増やしてみたり、何時間禁煙出来るか試してみた。一時間で降参だった。

 電話は全部無視した。
 メールも無視。
 親方にだけはアバラ折ったってウソ吐いた。
 ホントはウソ吐くのもどうかと思ったけど…この仕事はさ…シャンクスが紹介してくれたヤツだったからさ…辞めるって言うのは………どうしても出来なかった。
 『だ、大丈夫?仕事でやったの?』
 『あ、いえ、違います…』
 良い人な分、良心が傷んだ。
 誰かと関われば関わる程、色々面倒だったり、何かを感じたりしなきゃならない。
 ………あー……面倒クセー……
 …………ホント……面倒クセー……
 ……アイツ等が懐かしい…な……
 忙しい毎日。充実した毎日。
 波に揺られて、メニューを生み出す………
 することも無くなって、ベッドに横になりながらぼんやりと考える。
 コックスーツ。
 厨房の匂い。
 まな板に押さえつけた鮮魚が暴れる掌の感覚……
 レストラン・バラティエ
 今でも何でも思い出せる。

 (…あー……帰りてぇ……)

 「……っっ!!」
 気付いて、反射的に思考をストップさせた。
 ガバッ!!っと飛び起きて頭の中のバラティエでの記憶を探しまわる。
 クソ……ッ…もう忘れたんだろう?!
 体中に力を入れて、バラティエでの思い出を外に絞り出す。
 ふざけんなっ…ふざけんなっっ……
 痛くなるぐらい拳を握って奥歯を噛み締めた。
 雑音の無い部屋の無音に神経が逆撫でられる……。
 「…あーっっ!!」
 部屋の中で思い切り叫んだ。

 二時間後、
 『他の住人の方から苦情が入ってますので……』
 アパートの管理会社から携帯の留守電に伝言を入れられた。

 
 「………チッ……」
 バラティエのことを頭から追い出したら、今度はゾロのことが頭から離れなくなった。
 「…………」
 途端にざわざわした不快感に襲われる。
 ったく…何であんなヤツのことが忘れられねぇんだよ。
 こーして部屋に閉じ籠ってんのも、そもそもアイツが原因だろ?

 ズクン…

 「……っ」

 ケツの穴が変に疼いた。

 

 誰が一番最悪かって聞かれたら、一も二もなくゾロだ。
 友人ヅラして近寄りやがって、人が気ィ許した瞬間に襲ってきやがった。
 しかも力尽くでヤりやがった。

 ズクン……

 弱み握って伸しかかってきやがった…っ……
 耳元で低く呟きやがって…
 でけぇチンコ信じられないぐらい勃たせやがって。
 ベッドの上で自分の身体をゆっくり触る。
 …こんな貧弱な身体のどこが良いって言うんだよ…。
 肩を摩って腕を摩る。そのまま自分の身体を抱き込むように、脇腹から腰へと掌全体で自分の身体を撫で摩る。
 「………チッ……」

 (なんでアイツのこと考えるとこーなんだよっ……)

 半勃ち気味の自分のチンコを溜め息混じりに強めに握った。
 「うっ…」
 時間を持て余すようになってから何かっつったらチンコ摩るようになっちまってるし。
 オナニーし過ぎで敏感になった亀頭は、強めに摩るのにも慣れてきている。
 「あっ……ん……う………」
 直ぐに我慢汁で濡らしちまうし…。

 ズクン…ズクン……

 ケツの穴は変に疼くし……

 スゲームカつくのに、オナニーする度アイツのことを考えちまう。
 忘れようとしてんのに、オナニーする度、体中に残ってるアイツの感覚を探しちまう。
 チンコの先の割れ目に中指を突っ込むようにして強く擦ると、どうしようもないくらい興奮してくる。
 「……っ…ぞ…ろ……っ……ゾロ…ッ…」
 何でだか知らないけど、アイツの名前を呼ぶと…擦ってる場所が感電したみたいにビリビリしてくる。
 普通だったら耐えられないような強い刺激も、アイツのことを考えてると逆に何だか、もっともっと…欲しくなる。
 「うあっ……ああっ……ああ……ゾロッ…ゾロォ…っ」
 ベッドの上で大きく足を開き、女みたいに股を晒してアイツの名前を何度も繰り返す。
 俺に取って最悪なヤツなのに、アイツの裸やチンコや俺にされたことを考えれば考える程、身体が火照ってどうしようもなくなった。

 ズクン…ズクン…ズクン…ズクン……

 ケツの穴が欲しがって疼く。

 「ゾロォ…い……挿れ……て……っ……」

 

 頭が…どんどんおかしくなっていく…。
 ゾロが俺で感じている顔を思い出す。
 ケツを浮かせて穴に指を差し込んだ。
 いつもしてるみたいに指の腹に力を入れて掻き回す。
 「うっ…くっ…!」
 バラティエでの事件以来……快感を覚えてしまった俺のケツは、オナニーだけでもチンコを欲しがる。
 身体に残ったレイプの記憶が吐き気も一緒に連れて来るのに、身体はチンコを欲しがった。
 記憶の中の男を掻き分け、ゾロの顔と身体と声とチンコを思い出す。
 「ゾロッ!ゾロッ!!」
 名前を呼ぶ度、アホみたいに身体は熱くなっていく。
 「はあっ…はあっ…っ……あっ……はあっ……」
 後で絶対自己嫌悪に陥るっつーのに、ゾロとのセックスをそれこそ必死で思い出す。
 ケツと背中が畳で擦れた時の痛みまで思い出す。
 「…イかせてくれよ…っ…ゾロ…ォ…ッ……」
 身体を突っ張らせて力を入れた姿勢で自分のチンコを擦り続けた。
 快感に慣れた身体が、もっと強い刺激を求めているのが分かる。

 (チンコ…チンコが欲しいよ……っ……)

 荒い息をさせながら、激しく擦る手の動きを止める。
 「うっ…」
 よろつきながらも急いで流しのシンク下を探る。
 「…ゾ…ロ……」
 震える手でスリコギを取り出した。

 「あっ……はっ…はっ……」
 乾いた唇を舐めて濡らしながらベッドに倒れ込む。何度かチンコを強く擦って宥めながら、枕の下のコンドームを探って取り出した。
 ピリリ。
 歯でパッケージを破って中身を取り出す。
 そのまま焦ってスリコギに被せる。
 興奮に手が震えて、上手に填められない。
 「…うっ…く……」

 ズクン…ズクン…ッ…ズクンッ…ズクンッ……

 ケツが期待に何度もヒクつく。
 上手く填められなくて、コンドームを二枚も破いてしまった。
 スリコギのささくれがケツの穴に刺さるのが怖いからそのまま入れる訳にはいかない。
 そうじゃなくても調理器具をとんでもないことに使おうとしてるんだから、せめて汚したりとかしたくない。
 震える手で三つ目のコンドームの袋に手を伸ばした。
 ビリッ。
 チンコに刺激が欲しいから、利き手はずっと自分のチンコを擦ったままだ。
 (ゾロ……っ)
 上手くコンドームが付けられないもどかしさに、思わず涙が滲んできた。
 とうとう俺は自分の口にコンドームを銜え込んだ。
 激しくオナニーを続けながら、もう片方の手でしっかりとスリコギを握る。
 俺は酷く興奮しながら、口と舌でスリコギの先にコンドームを被せて口の奥に飲み込み、唇で押し出すようにコンドームを填めていった。
 自分でも訳解んないくらい上手に出来た。
 暫く経って、自分の舌がスリコギの側面を夢中で舐めていたのに気が付いた。
 「はあっ…はあ…っ……はあ…っ……」
 自分の熱くなっている呼吸にすら煽られた。
 腰の辺りに枕を敷いて、ベッドの上に仰向けに身体を投げ出した。ケツを浮かせて足を必要以上に大きく開いた。

 ズクンッ!…ズクンッ…!ズクンッ…!ズクンッッ!!

 「んんっ!!」

 生まれて初めてケツの穴の疼きに耐えられなくて道具を使った。
 スリコギは、ゾロのチンコより全然細かったけれど、自分の指でやるよりは、比べ物にならないぐらいケツの穴を喜ばせてくれた。
 「ああっ!ああっ!!ああっ!!あうっ…んっっ!!」
 固くて痛くてちっともチンコっぽくなかったけど、初めての感覚は、おかしくなるには十分だった。
 喘ぎ声も我慢なんてしない。
 掠れるまで大きく喘いだ。
 スリコギをケツに入れて感じてるなんてバカみたいだと思った。
 思ったけど、スゲー興奮した。
 何度も何度もゾロの名前を呼んだ。
 ゾロのチンコが欲しくて欲しくてたまらなかった。
 俺、ゾロとセックスしたい。
 本気で、心の底からそう思った。
 オナニーしている間だけ、まるで好きなんじゃないかってくらいにアイツのことで一杯だった。
 インターネットの通販で、オナニーグッズ買おう…。
 オナホールとかじゃなくて、女の子用のオナニーグッズ買お。ゾロと同じサイズのバイブ買って…毎晩…すげー…オナニーしよー……。
 段々何考えてんだか分からなくなってきた…。
 はぁはあ言いながら、ケツの穴を刺激してよがる。
 もー、何がなんだか分からなくなって、半泣き状態でオナニーを続けた。
 半泣きがそのうち本泣きになって、呼吸困難になりかけながらも手は休めなかった。
 ベットの側の全身鏡に自分のとんでもない姿が映っているのに気が付いて、釘付けになった。
 スゲー情けない格好なのに、異常なぐらい興奮した。
 「うああぁぁぁ……っっ……ああ…っ!!ああっっ!!……ああああっっ……っ…ゾロぉっっっ!!!!」

 オナニーごとに、自分がエスカレートしていくのを留められない……。

 

 裸のまま眠って、目が覚めて、裸のままで机の上のノートパソコンをベッドの中に引き摺りこんだ。
 自己嫌悪にどっぷり浸かりながら、検索エンジンで『オナニーグッズ』の文字を入力した。
 男用のオナニーグッズには全然興味が湧かなくて、女の子用のページにばかりアクセスした。
 極太のバイブを眺めながら、興奮してきてまたチンコを握った。
 パール入りの黒い極太バイブと、吸盤付きのタイプのヤツを注文した。

 

 

 通販のオナニーグッズは、三日後に代金引き換えでやってきた。
 引き裂くように袋を開いて、吸盤付きのバイブから使ってみた。
 フローリングの床に吸盤を吸い付かせると、極太のチンコのオブジェみたいに、床から肌色のシリコン製の極太バイブが直角に立ち上がった。
 それだけでバカみたいに興奮して、俺は速攻裸になった。
 ケツとバイブにローションをたっぷり付けて、上から跨がってバイブを穴に挿入した。
 「ンンッ……」
 ゾロの激しいセックスからはほど遠かったけど、自分の指より、スリコギより、気持ち良くってイキやすかった。
 馬に乗ってるみたいな動きをしながらオナニーした。
 体重を掛けながら根元までバイブを飲み込むのはメチャクチャ気持ちよかった。
 二回目は、鏡を立てて見ながらやった。
 前に見たエロビデオに出ていた女の子みたいに喘ぎながらやってみた。
 俺も、女の子みたいに濡れれば良いのに…とか思った。
 バイブの電源を入れて、ケツを深く落として擦り付けるように振ると、時折すげぇ快感が身体を突き抜けた。
 「あうっっ!!」
 黒のパール入りのバイブは、オマケに付いてきたローターと一緒に使った。
 ベッドの上に寝転んで、ケツにバイブをブッ刺して、電源を入れる。
 「ああ…っ…」
 大きな回転に身体が跳ね上がった。
 そのままチンコの亀頭に滲んできた我慢汁をたっぷりとローターに付けて、チンコの先に押し付けた。
 「うぁぁぁぁぁ…………」
 焼け付くような快感が頭まで突き抜けた。
 俯せになってケツを高く上げた姿勢でヤったり、デジカメで撮影しながらヤったりもした。
 何をやっても興奮した。
 ゾロのことを考えれば、いくらでも出来た。

 なんか、オナニーだけで生きていけるんじゃないかと思った………。

 オナニーグッズはは、それから五つ、買い足した。

 

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