【meraviglioso】
++奇跡++
3
「ねぇ、ゾロ」
「…んん?」
「…アンタさぁ…いい加減にしなさいよ」
「何が?」
「そんなケンカしてたら、きっといつか誰か死ぬわ」
口にラジェットを銜えたまま、振り返りもせずにゾロが言う。
「だろうな」
冷め切った低い声には罪悪感の欠片も無い。
ナミは自分の方に振り向きもしないゾロの背中を睨み付けると、そのままフロアーへと視線を移した。
躯体バラシを翌週に控えたエントランスホールには、幾人もの屈強そうな男達が苦しそうな呻き声を上げながらのたうち回っている。
だだっ広いホールの中で、ゾロと、全てが終わってから足を踏み込んで来たナミだけが無傷だった。
ナミはわざと聞こえるような溜め息を吐き、口を開く。
「まるで他人事よね」
怒ったようなきつい口調。
「…………」
「今度は何?」
「…別に」
「理由も無しで半殺し?」
「先に手ェ出したのはコイツ等だ」
「だからって、ここまでやることないでしょ」
「…ウルセェな」
近寄ることも憚られるような背中に、かつては同棲したこともあったナミですら恐怖を感じずにはいられない。
感情も抑揚も無い、けだるげなゾロの声。
何かか欠落したような…まるで出逢ったばかりの頃のような…人間味の薄れた声は、まるで世界の全てを拒絶しているかの様だった。
暫くナミは何も言えず、ただずっとゾロの背中を見詰めていた。
この二年間でゾロは酷く変わってしまった。
元に戻ってしまったと言った方が良いかもしれない。
僅かでも笑うようになった表情は一切消えてしまい、聞こえた言葉は何一つ心に届いていないようだった。
取り戻しかけていた『情』も、すっかり無くなり、他人との関わりが一切なくなってしまった。
仕事仲間のルフィにすら、口をきくことが無くなってしまった。
言われた仕事をこなすだけの毎日を過ごすゾロは、近くにいながら酷く遠い存在になってしまっていた。
ナミは、何度か恋人のルフィに尋ねた。
『ねぇ、ゾロ、なにがあったの?』
ルフィは決して教えようとはしなかった。
『ゾロの問題だ。俺達が口出し出来るモンじゃない』
そう言いながら見守るだけのルフィも辛そうで、ナミもそれ以上聞くことが出来なかった。
現場でのケンカも激しさを増して行った。
相手が許しを乞いても、許すことが出来なくなってしまった。
いつか死人が出る。
ナミでなくても誰もが思うことだった。
ゾロの周りから人が消えた。
黙って一緒に仕事を続けるルフィだけが残った。
誰も話しかける人間は無く、ゾロもまた誰にも話しかけなかった。
多くの人間がひしめき合う現場の中で、ゾロはたった一人だった。
「……ねぇ…ゾロ……」
倒れている男達に応急処置を施し、明らかに骨を折られている様子の何人かの為に救急車を呼んだりと、手際良く後始末を終えたナミが、意を決してゾロに声を掛けた。
「………」
ゾロは首だけ振り返り、深く、暗く、冷たい視線でナミを見た。
何を言おうという訳ではなかった。
ナミはただ、ゾロに何か言いたいと思って声を掛けただけだった。
名前を呼べば、続けて何が言いたいのか、自然に頭に浮かぶかと思い、ただ、ゾロの名前を呼んだだけだった。
だが。
ゾロの顔を見た途端、掛けられる言葉など、何も無いのだと気が付いた。
感情の無い、ただ、視力だけを持つ視線。
暗く、沈んだ瞳の色は、何も訴えかけてはこなかった。
あらゆるものとの関わりを拒むような…拒まれたような視線から、ナミは目を離すことが出来なかった。
どうしてこんな目が出来るのだろう…。
ナミはゾロを見詰めながら思った。
こんな辛そうな。
こんな悲しそうな。
こんな…
こんな…
寂しそうな……。
「…ねぇ…寂しいの?」
ナミの言葉に、ゾロが僅かに顔を歪めた。
ナミは、ゾロを見て、胸が突き刺さるように痛んだ。
(…まるで…捨てられた子供みたい…)
ナミは、ゾロが泣いているのかと錯覚を起こした。
「…ゾロ…どうしたの?何があったの?」
ゾロは何も答えない。
ナミは、ゾロの表情が歪んだまま暗く沈み、凍り付いて行くのを見た。
突然ナミは理解した。
ゾロは、深く傷付いている。
「…………」
「ね、教えて。何があったの?」
自分でも信じられないくらい優しい声が出た。
だが、ゾロには辛いだけだった。
「…………ウルセェ…」
ゾロは踵を返し、ナミを置いたままエントランスを後にした。
(…ねぇゾロ…それじゃまるで…逃げ出すみたいよ…)
ナミは、ゾロの後ろ姿を見ながら思った。
後を追いかけようとしたナミの耳に、救急車のサイレンの音が聞こえて来た。
「…んなぁー…っ」
「ん?ジージどうした?」
「んなっ、なーっっ」
仕事に出掛けようと準備している俺の足に、ジージがぽすぽすと頭をぶつけて来て声を掛けてくる。
見下ろして目が合うと、両前足を伸ばして、俺の足にしがみつきながら、後ろ足で立ち上がってくる。
「コラコラッッズボンに爪立てんなってっ」
「んにゃー」
ジージは目を真っ黒にしてキラキラ輝かせながら俺の顔を見上げている。
腰を少しだけ屈めて頭を撫でてくると、ジージは精一杯背伸びをしながら俺の掌に頭を擦り付けてくる。
「ったく…時間ねーっつーのに…」
柔らかくてほわほわの暖かい毛の触り心地が指に気持ち良い。
ジージは嬉しそうにゴロゴロと喉を鳴らしながら、もっともっとっイイコイイコしてーっっ!て感じで、頭をグリグリ押し付けてくる。
スッゲー可愛いんだ。
俺さ、もの凄い親バカ入ってっと思う。
ジージなんてさ、ガリガリで毛なんかボサボサで、最近やっと肉が付き始めて表情なんかもしっかりしてきたけど、正直言ってペットショップなんかにいたら、最後の最後まで売れなくて、最悪処分されそうな部類だ。
絶対雑種だし、他にもっと良いネコなんてそれこそ星の数以上にあると思う。
でも、可愛いんだよね、これがまた。
テンポのズレ具合とか、鳴く時にいちいち舌出して鳴く不器用さ加減とか、よたよたした感じとか、眠り方とか、どんなにおもちゃ買って来ても、一番気に入ってるのが、モールをぐるぐると丸めたヤツだって言う所とかさ…後…まぁ、色々と。
すっごい可愛い。
メスネコって言うところも可愛い。
今までペットって飼ったことがなかったからかもしんないんだけど、とにかく最高。
性格が引っ込み思案なところも可愛いし、俺が一番好きだってところも超可愛い。
マニアックな感じなんか、もうサイコー。
だから親バカで結構。
ジージは可愛い。ホント、可愛い。
あの日、コイツに会えて良かった。
存在感の欠片も無かったジージを見付けられて本当に良かった。
死なないでくれて、本当に良かった。
なぁ、ジージ俺が守ってやるからな。
ずーっとお前を守ってやるからな。
俺は絶対に裏切らないからな。
俺が、ジージを守ってやるんだ。
俺は、アイツとは違うんだ。
仕事して、給料貰って、支払いして、買い物して。
メシ作って、メシ食って。
ジージと一緒に暮らして。
ちょっとずつジージが大きくなってくのが嬉しかった。
ただ……
ジージが俺に懐けば懐く程、どうしようもなく人肌が恋しくなっていくのに気が付いた。
ジージに愛情を注げば注ぐ程、孤独が辛くなって来た。
ナミさんへのメールが増えて行く。
誰かと会話がしたくてたまらなくなってく。
『ナミさん、元気?』
『何してるの?』
『結婚式の準備は進んでる?』
『ナミさん』
『ナミさん』
『どうしたのサンジ君?寂しいの?』
慌ててメールを打つ手を止める。
「んなー…」
ジージが側に寄ってくる。
「…ほら、向こうに行きな」
「んなー」
「………」
「んなーっ」
「うるさいっ!!」
ベットと壁の間に作った隙間に逃げ込んで怯えるジージを見て、自己嫌悪に落ちる。
「…ごめん…ごめんジージ…」
「……んなー……」
どうしよう。
寂しくて、泣きそうだ。
ギシッ…
「んっ……あ…っ…」
思い出したようにオナニーに逃げた。
「はぁ…っ…はぁ…っ…は…っ…ぁっ…うっ…」
(…ゾロ…ッ…)
オナニーしてて…イク瞬間の…自分がコントロール出来なくなると…どうしてもアイツの名前が頭に浮かぶ。
「んんっ!!」
ゾロとのセックスが頭から追い出せない。
「…………」
汚れたティシュを丸めてゴミ箱に投げながら、おかしくなりそうな自分を責める。
たった一回のセックスだったのに、どうしてこんなに引き摺ってるのか、
「……………クソッ………」
…分かんねぇよ……。
「……んな…ぁ…」
横を見ると、ベッドの縁に両手を掛けて、俺を覗き込んでいたジージと目が合った。
「何だよ…見てたの…?」
「んにゃー…」
「…ったく……おいで」
「にゃあっ」
嬉しそうにベッドに飛び乗って来た時の僅かなベッドの揺れに、酷く身体が動揺する。
擦り寄って来たジージを撫でると、幸せそうに喉を鳴らした。
(……羨ましい…な…)
心の底から羨ましかった。
愛されて守られて、ジージはどんどん心の警戒心を解いていく。
ジージはもう一人じゃない。
怖がることなんてもう何も無い。
(……俺は……)
一人だ。
ジージがいる…でも……俺が本当に求めているのは…
(………ゾロ………ッ……)
思わず名前を呼びそうになって、咄嗟に堪えた。
違うっ…違うっ……違うんだ……違うのに………
(………ゾロぉ………っ…………)
ダメだっ。コイツの名前だけは口にしちゃいけない…。
ダメだ。ダメだ。ダメだっ。
ジージを強く抱き締めて、ジージの身体に顔を埋めて、ずっと心の奥に押し込んでいるアイツの名前を押し殺した。
辛くて痛くて、死にそうだった。
「にゃあっ」
痛そうに身を捩らせてジージが俺の腕の中から逃げ出す。
両腕の中に出来た空洞が泣きそうなくらい寂しくて、俺はシーツの中で身体を出来る限り小さく丸めた。
(寂しい…寂しい……)
「……ちくしょぉ…っ……」
……俺は…一体どうしたいんだよ…っ…
……好きだとか……そういうのは怖いから…絶対嫌なのに……
…『コレ』は一体なんなんだよ…っ…
身体中に力を入れて涙が出るのを必死で堪える。
ちくしょう…こんなことで泣くなんて…ガキじゃあるまいし……
『おいチビナス』
「……っ…」
ずっと忘れていたジジイの声が頭の中で聞こえた。
「うっ…くっ……」
『どうした、またベソかいてんのか』
「うー…っ……」
我慢しているのに、顔がぐしゃぐしゃに歪んでくる。
鼻の奥がツンと痛む。
「…っく…うっ……うう……」
(寂しい…さみしいよ…)
(違う…違う…っ……)
(嫌だ…さみしい…っ…)
あいたい。
あいたい。
あいたい。
あいたい。
誰に?
ジジイに?
それとも
「……………ゾロ……ッ……」
バラティエで一生分の涙を使い果たしてたと思ってた。
感情で泣くことなんて、もう無いと思ってた。
誰かに会いたくて、こんなに涙が出るなんて信じられなかった。
「うっ…あああっっ…うう…っ……っく……うう…」
シーツを握り締め、身体を丸めて、声を押し殺して俺は泣く。
背中が震え、ガキみたいにしゃくり上げ、心細くなって、また涙が溢れる。
会いたい。
会いたい。
会いたい。
会いたいっ。
「…どうし…てっ…っく…こんなに…っく…っ………」
こんなに…こんなに…
今でもこんなに怖いのに……。
……ゾロ…お前のことがどうしても忘れられねぇんだよ…っ……。
あんなに怖かったのに…あんな苦しいレイプされたって言うのに…
苦しい……。
死ぬ程苦しい…セックス。
死ぬ程気持ち良くて…離れられなくなるような…
ダメだって分かってるのに…俺はこんなに……。
(…嫌だ…っ……嫌だよ……っ…)
好きだとか……そういうのって…もう怖いんだよ。
男同士のセックスしか受け付けられないような身体だけど、俺、抱かれるのを凄い身体が求めちゃうけど、プラトニックな恋愛なんて、絶対出来ないような身体だけど。
だけど、やっぱり怖いんだ。
気持ちがさ……今でも…処女のままなんだ。
まだ誰も…ちゃんと好きになったことが無いんだよ…。
どうやって、好きになれば良いのか分からないんだ。
なのに…どうして……
こんなに……こんなに…怖いのに…っ…
「…んなー」
「…ジージ」
逃げ出したジージが、またベッドの上に戻って来ていた。
かりかりとシーツを引っ掻き、俺ことを何度も呼んだ。
「なー…なぁー」
「……ジージ…ィ…」
シーツから、少しだけ出した顔にジージは思いっ切り、頭を摺り寄せて来た。
「…っく……おいで…」
シーツをめくると、ジージが中に滑り込んで来て、俺の腹の辺りで丸くなり、小さな溜め息をついて大人しくなった。
じんわりとジージの暖かさが俺の身体に伝わってくる。
拾った時と比べれば、遥かにしっかりとした暖かさだ。
そっと手を伸ばして、ジージの頭に静かに触れる。
ジージはすっかり安心したように身体を伸ばし、更に俺に身体を摺り寄せて来た。
こんなにジージが側にいるのに。
俺は、一層心細くなって、いつまでもいつまでも泣き続けていた。
泣き疲れて、いつの間にか落ちた眠りの中に、ジジイとゾロが笑っていた。
二人とも、俺にすげぇ笑ってくれた。
ダッシュで側に走り寄って、抱き着きてェ…って、凄く思った。
すっげぇ………好きだ……って……思った。
誰かを好きになるのはもう俺の中では無しなのに、気持ちを押さえることがどうしても出来ない。
辛くてまた泣きそうになった。
俺の側に居たジージが先に走り出した。
真っすぐにジジイの方に走っていった。
ジージはぴょん!と、ジジイの腕の中に飛び込むと、一生懸命にジジイのコックコートの匂いを嗅ぎ始めた。
多分、料理した魚の匂いが気に入ったんだろう。
ジジイがまるで壊れ物を扱うように、ジージの身体を抱いていた。
ジージはとにかくジジイの匂いとジジイのことが気に入ったのか、目一杯ジジイに甘えまくっていた。
ジジイの目が優しく細くなる。
まるで…自分の孫を抱いているような…見たことも無い優しい視線で、ジージを見ていた。
どこかで見たような表情だったけど、どうしても思い出せなかった。
好きなものを素直に表現出来るジージが凄く羨ましかった。
「ーーー」
誰かに名前を呼ばれたような気がして、俺はジジイから目を逸らした。
直ぐ側にゾロが立っていた。
「……っ」
びっくりして、俺は何も出来なくなった。
夢の中でも俺は躊躇していた。
ゾロが黙って、俺を見詰める。
俺は、たまらなくなって思わず俯く。
怖い。こわい。
すごくこわい。
……なのに…嬉しい…。
会いたかった。
すごく…会いたかった。
会って………
「俺は…どうすれば良い……?…」
耐えきれなくなって、とうとう俺はゾロに尋ねた。
『なんだ、そんなことも分からねーのか?』
夢の中のゾロは、ガキみてーな顔して笑っていた。
(ゾロ…)
やけに広く感じる部屋の中で、ベッドと壁の間に作った狭い隙間に身体を無理矢理押し込んで、小さくなって目を閉じる。
時間はゆっくりと過ぎていき、部屋の色が刻々と変わっていく。
夕方になり、日が暮れ始めて、次第に部屋が暗くなっていく。
ぼんやりと、暗くなっていく部屋を眺めていた。
踞ってゾロのことを考える。
もう、随分会っていないっていうのに、直ぐに顔とか身体とか声とか思い出せた。
会いてぇな…なんて思った。
会いてぇな…。会って……もう一回…『好きだ』言われてぇな…。
抱き締められたり、セックスしたりしてぇ。
もしもダメなら、側にいるだけでも良い。
それもダメだって言うんだったら、遠くから姿眺めるだけでも良い。
……もーダメだ。
ずっと我慢して来たけど限界だ。
ゾロに会いたい。
顔が見たくて、声が聞きたい。
あの、ガキみたいな全開の笑顔が見たいし、
筋肉だらけで、傷だらけの日に焼けた身体が見たい。
アホみたいにでかいチンコも見たい。
現場で鍛えた身体が恋しい。
ゾロに会いたい。
会って、速攻セックスしたい。
会いたくて、寂しくて。
もう我慢出来ない。
「…ゾロ…」
もう、なんだかホント良く分かんないけど…このグチャグチャしててワーッ!!とか、ギャーッ!!とかなってる俺の中の、この、訳解んない感情って…もうそろそろ観念して正体見極めなきゃならねぇ。
本当は知っているのに、ずっと無視してる感情なんだと認めた方が良いに決まっている。
もう…さ、この、俺の感情のほとんどを支配している気持ちを認めてやらなきゃ、俺、おかしくなりそうなんだ。
寂しくて、頭がヘンになりそうなんだ。
この…訳の解らねェって……ずっと誤魔化していた感情が『好き』って気持ちなんだってことを。
俺は、ゾロが『好き』なんだってことを。
ジージと暮らして良く分かった。
俺は、まだ誰かを愛したいし、愛されたいんだ。
「んなー」
ジージが俺を捜して部屋をうろつく。
「んなーっ。んなーっ」
「ジージ」
「にゃっ」
俺が呼ぶと、ジージは嬉しそうに返事をして、俺のいるベットとタンスの隙間に向かって駆け寄ってくる。
俺は、居心地の良い隙間から身体を出して、部屋の真ん中まで這い出して来た。
ジージはテンションを高くして、ニャーニャー言いながら俺の背中に飛び乗ってくる。
部屋の真ん中でベタッと俯せに倒れ、身体を仰向けにひっくり返しながら、周りをバタバタ走り回っているジージの身体をポンポンと叩く。
ジージは背中を叩かれた瞬間に、パタッ!っと倒れて、腹を見せて、
「にゃーん」
と、甘えた鳴き声を上げた。
これは、『腹撫でてーっっ』の、ポーズ。
目一杯甘えまくるジージの姿にちょっと癒される。
「なぁ、ジージ」
ゴロゴロ言いながら、何故か後ろ足で『カカカッ!』と、俺の手を引っ掻いてくるジージの腹をグリグリ撫でて声を掛ける。
「んにゃっ」
「…俺さ…好きなヤツがいるんだけどさ…イテテッ…こーらっ爪立てんなって…はいはい……よしよし……な、ジージ、どう思う?」
撫でられるのに夢中になってるジージに話しかける。
「なぁ…俺さぁ…どうすれば良い?」
興奮しているジージは俺の話なんかおかまいなしで、後ろ足でもの凄い勢いで俺の足を蹴るように引っ掻きながら、両前足で俺の手を掴み、今度は齧ろうとしている。
噛まれないように、腹の毛を掴んで、ちょっと強めに腹ごと身体全身を揺すってみせると、目を真っ黒にして更に興奮して噛み付いてくる。
「いてっ!!ジージッ」
暫く、ジージと格闘。
それからぎゅーっと抱き締めて、ジージの匂いを嗅ぐ。 暖かな獣の毛皮の良い匂いに、腹の中が暖かくなるようにホッとする。
「…なぁ、ジージ」
「ぎゃー」
俺は、ジージを抱き込んで、踞って姿勢になってジージに声を掛けた。
「…俺さ、好きなヤツがいるんだ。初めて会った時から…ずっと好きだったのかもしれないんだ…。でも、さ、途中、怖くなって逃げ出したんだ…」
ジージが俺の腕のなかでじたばたしていた。だが、俺は、ジージを傷付けないように、しっかりと抱き締める。
暫くもがいていたジージもそのうち、俺の腕の中で静かになった。
「…好きなんだ…凄く…好きなんだ……多分……良く分かんないんだけど……でも、すっげー好きなんだ。どうしようもないくらい……好きなんだ……セックスしてーし、無茶苦茶にされてーし…もう…壊されたいくらい…好きなんだ……」
「んなー」
「……どうしよう……すげー好きなんだ……すげー…怖いのに……ジージ……なぁ……俺……どうしよう……」
ジージが、グリグリと隙間に頭を押し込んで、俺の腕の中から逃げ出した。
俺は踞った姿勢のまま、喋り続ける。
「どうしよう…すげー好きなんだ。どうしようもないくらい好きなんだ。逃げ出すぐらい好きなんだ。ジージ、俺…ゾロが…すげー…好きなんだよ……」
トンッ……
ジージが、俺の背中の上に昇って来た。
そのままじっとしていると、ジージが俺の背中の上で、踞って丸くなった。
ふうっ…と、小さな溜め息を吐いて、ジージはそのうち、寝息を立て始めた。
「ジージ……おい…俺、ホントに悩んでるだぜ……」
我ながら情けないなって声に、自分で笑ってしまった。
ジージを起こさないように慎重に身体を伸ばして、自分も溜め息を吐く。
暫くそのままボーってしてたら、ジージが寝ている背中がじんわりと暖かくなって来た。
「……俺さ…ゾロが……好きなんだよ……」
小さな声でもう一度呟いた。
言葉にしたら、真実なんだって、理解した。
続く
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