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 何か多分、良い夢を見ていたような気がする。

 ほわほわしてて暖かくて安心出来るような所で…何か……こう……気持ち良く……何かしている夢だったような……。
 内容はほとんど記憶に無いけど、ちょっと続きが見たくなるような感じの夢。
 フルカラーの明るい色彩の…優しくて…すごく気持ちの良い夢だった。
 間違いないよ。きっと良い夢見てたと思う。
 だって俺、目が覚めた時に顔が笑ってたもん。
 午前三時きっかりに携帯のアラームが鳴る。
 「……ん…っ…」
 えーもう朝ぁ?…みたいな気持ちで暗闇の中、狭い寝床の中で身じろぎ…動けないのに気付いて…今日は誰かと一緒に眠っていたことにようやく気付いた。
 (……あ…そうだったっけ…)
 気付いたら、眠ったいた時よりもはっきりと笑顔になってる自分に気付いた。
 (…ったく…しょうがねーな……)
 最初の頃こそ本気で抵抗してたけど、慣れてしまうと逆にコレが楽しみになっちゃってるし。
 …なんて考えてるのを相手に気付かれた日には本当に…いや…もう…本当に大変なことが起きるから大変なんで、絶対伝えたりはしないけどね。
 起き出すのが勿体無くてじっとしてたら携帯のアラームが設定の三十秒を経過してピタリと止まる。
 携帯のスヌーズが起動するのは五分ごと。
 後五分だけなら……良いか。
 実は放っとけばいつまでも眠ってしまうタイプなんで、アラームには絶鯛に従うように決めてんだけど、今日は特別。
 静かに息を吐き出しながら力を抜いて、しがみつくように俺を抱き締めたまま眠っている相手の身体に擦り寄ると、胸に耳を押し当てるような体勢になって、そう言えば昨日眠りに落ちた時ってこの格好だったっけな…なんて、ふわりと頭の片隅で思い出した。
 ぴったりと相手の肌に自分の肌が密着するのが気持ち良い。
 自分とは違うペースの心臓の音も心地良かった。
 (…良い夢見たのは…これが理由かもな…)
 暖かくて気持ち良くて、いつもみたいに一人じゃないから。
 しょぼしょぼする目を何とか薄く開きながら間近にあるはずの相手の顔を見上げてみる。
 「……ふふ…っ」
 起きてる時だって俺より一つ年上とか絶対ウソだってって感じの子供みたいな表情している相手の顔が、今はもうまるっきり子供みたいなあどけない表情になっちまってる。
 あんまりカワイイ顔して寝てるんで、ガマン出来なくなって笑ってしまった。
 昨夜の眠りにつくまでの言うこと気かないやんちゃ振りといい、この妙に強制的にほんわかさせられるあどけなさといい、良くも悪くも子供らしさが全開だよな。
 なんつーか……父性愛をくすぐられるっていうか……。
 誰かに見られたらホントヤバい状況なんだけど…なぜか甘んじている上に楽しみにさせてしまうような、何だか良く分からない強引な魅力を持っていることは仕方なしに認めてはいる。

 次のアラームが鳴るまでの五分間。
 俺は密着した肌の感触と相手の体温をじんわりと味わいながら、見てるこっちがペースに嵌まってほんわかさせられる間近で眠るソバカス顔の男のことをじっと見詰め続けていると……急に男の目が開いた。
 「…っ(!!)……よぉ…」
 「……オハヨ」
 「…ん……おはよう…」
 寝ぼけ眼の瞳がじっと俺のことを見詰めている。
 「…ずっと俺のこと見てたの?」
 「ばっ……違うよ」
 慌てて目を逸らそうとした直前に一緒に眠っていた男……エースが、微笑った。
 「じゃあ何でそんなに顔が赤いの?」
 「っ……も…起きるっ」
 一気に脳味噌まで沸点に達した感じに熱くなってるのに気付かれたらマズい。慌てて見えないように顔を背けてエースの腕の中から逃げ出し始めた。が、時既に遅く。おそらく『その気』になってしまったエースの野郎ががっちりと俺の身体をホールドしてきやがった。
 「放せ…っ…てっ!」
 「何で?」
 「店の準備っ!!」
 「大丈夫。手伝うからっ」
 「手伝うなっ」(↑手伝われて、エラいことになったこと多数)「食材が勿体無いっ」
 モガモガ暴れるが、筋肉的にも力的にも体勢的にもこっちの方が分が悪い。
 「時間かけないから」
 「んなこと言って掛けなかったことねーじゃねーかっっ!!」
 「サンちゃんがカワイイ声出すからだよ。興奮させて煽ってんのどっちだと思ってんの?」
 「てめっ…!」
 「もー一々照れちゃってカワイーなぁ…」
 ペコちゃんみたいな顔したまま、有無を言わせない力で俺の上に伸しかかってきた。
 「早く終わるかどうかはサンちゃん次第だって」
 言いながら、強引に脚の間に膝が割り入ってくる。
 「うっ!」
 朝勃ちのチンコを絶妙な力加減でグリグリ膝で擦り始めた。
 「トイレっ!!」
 「大丈夫」
 俺の上に伸しかかっているエースが耳元に口を押し付けながら囁く「射精の方が優先されるから『お漏らし』しないよ」そのままベロン…と首筋を舐め上げ、耳朶に吐息を吹きかけながら甘くゆっくりと噛み付いてきた。
 「ふぁ…っ」
 ゾワァッ……!!っと腰から頭のてっぺんまで、一気に肌が粟立った。
 「おっ敏感肌っ」
 嬉しそうに漏らした声がもう完全に興奮している。
 ああ…もうダメだ。
 こうなったエースはもうどうにも止められない。
 絶対に力じゃ対抗出来ないし、
 他も…抵抗出来ないし。
 ガーガー文句を言うだけムダで。
 早く終わらせて厨房に立ちたかったら好きなようにさせるのが利口で。
 「……テメェ…朝は何もしねぇって言ったクセに」
 「俺が?そんなこと言ったっけ?」
 …ったく…カワイイ顔してすっとぼけやがって。
 「いいから早くしろよっ」
 「はぁい♪」
 いそいそと俺のチンコを銜えようとしているエースに、半ば本気で朝ションしてやろうとか思った直後。
 「う…ぁ…ぁ…っ…」
 いとも簡単に。
 俺はエースに指導権を奪われた。

 

 続く

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