【鎖を持つ家】

3

*****

 木村診療所を後にして一旦国道に戻る。
 信号を左折してアクセルを踏み込む。一キロも走らない内に海水浴場の看板が見えてきた。「ここだ…っ」ハンドルを左に切り、駐車場に車を滑り込ませる。
 ここは以前ゾロと一緒に来た時に来たことがある浜だ。砂地の綺麗な遠浅の海で、お盆休み前後の僅かな観光シーズンだけ人で賑わい、後はめっきり人がいなくなるって言っていた。「うわ…ホント…誰もいねぇな…」停まっている車は一台も無い。バキバキにヒビの入った古いアスファルトが妙に物寂しげだ。
 海辺の方に目をやっても人っ子一人泳いでいない。
 「……プライベートビーチだな」
 ぼそっと呟く。
 じっ…っと目の前の海を睨み付ける。
 前に見た時と変わらない、静かで穏やかな海だ。
 バタンバタン…。沖の方から聞こえてくる波の音が聞こえてくる。以前二人で聞いた波の音を今は一人で。

 バタン…バタン…バタン……バタン……
 「……………」

 聞きながら腹を括った。
 俺が、ゾロに、会いに、行く。
 エンジンを切り、窓を閉めてカバンを掴んで車から降りる。
 トランクに入った工具箱の中からさしがね定規とハンマーを取り出し「借りるぞウソップ」カバンの中に突っ込み。
 「……よしっ」
 そのまま肩にカバンを掛けて、俺は診療所に向かって走り出した。

 

 診療所に戻る道すがら、コンビニじみたパン屋を見付けて、水とパンを購入。
 「あ、ストローも付けてもらえますか?」
 目についた果物ナイフも念のために購入。
 暗い店内を見回すと、なぜか薬局コーナーらしきものまであった。
 「うちねぇ、ホントは薬局なんよー」
 おいおい、メインがパンの薬局屋なんて聞いたことないよ。
 「…あ、じゃあ熱冷ましのシートみたいのって売ってます?」
 「さて…あると思うし、ちょっと待っててねぇ」
 人の良さそうなおばあちゃんがごそごそと商品をひっくり返してくれる。
 「……なかったら良いですよ」
 「いやいや、確かあったはずなんよ。えーとねぇ………あっ、あったあった」
 引きずり出された商品は何年前だってぐらい外箱が色褪せていた。埃だらけになった箱を節くれ立った手でパンパンと叩き、前掛けでゴシゴシと汚れを拭う。
 「ああっ、良いよ良いよっそのままで。前掛け汚れちゃうからっ」
 慌てて半歩近寄ると、グイッと俺の顔を見上げておばあちゃんがニニッ!っと笑った。
 「これでも良いかい?」
 思わず俺もニニッと笑えた。
 「もちろん。…ありがとう」
 「おやおや…お兄さん、笑うといけぇ(とても)可愛いねぇ…」
 はいおまけだよ、と、おばあさんは袋の中に手近にあった大きな飴玉を三つ取り出すと、小さなビニール袋に詰めて入れてくれた。
 
 

 車で来た道を走って帰る。
 「はぁっ、はぁっ、はぁっ……はあっ…はあっ……」
 太陽が高くなるにつれて気温がどんどん上昇してくる。整備の行き届いていない道路は全体的に白っぽくて、余計に日射しを反射しているような気がする。
 汗でシャツが背中にびったりくっついているのが気持ち悪かった。
 急がなきゃ。
 とにかく早く擁護のところへ戻りたかった。

 『すまないね……これから一つ手術があってね……』
 『誰のですか?』
 『教えられない』

 あのジジイの言った言葉を全部信じている訳じゃない。
 もしも本当に手術するんだったら、あんなに病院の中がひっそりと静まりかえっているのも不自然だ。
 普通、看護士の一人や二人、いなきゃならないような気がしてならない。
 俺を追い払うための口実だって考えた方がよっぽど自然だ。
 カーテンの隙間から俺が諦めて帰るのをコソコソ見張ってたぐらいだからな。
 俺を追い払いたがったのにはそれなりの理由があってのことだろう。
 短絡的に考えれば。

 ゾロが来る。
 か、
 ゾロのところへ行く。

 だ。
 つか、そうであって欲しい。
 ロールプレイングゲームじゃあるまいし、こんな精神状態でゾロに会うためにあちこちイベントしている余裕は無い。ダイレクトにゾロに会わせて貰えないんだったら間違いなくキレる自信は目一杯、ある。
 それに、携帯電話のガキは、擁護に会えと言った。
 『後はあいつに案内させる』
 つってたんだから、あのジジイに付いてればゾロと接触する筈だ。
 そうだ。そうだ。絶対にそうだ。
 俺的に間違いない。
 だって色々考えられる程余裕無ぇもん。
 信じるんだったら……俺は電話のガキを信じる。

 擁護は必ずゾロに会う。
 今はとにかく信じよう。
 あのジジイから離れなければ、必ずゾロのところに行ける。
 必ず。
 絶対に。
 「はあ…っ…はあっ……はあっ…っ」
 苦しさにギュッと力一杯目を瞑り、それから見開いて真っ直ぐ前を睨み付ける。
 「…っく…っ……」
 顔の周りの空気が熱い。
 浜からの風も生温い。
 くっそーっっ。ゾロのアホーっっ!!テメーのせいで汗だくじゃねーかっっ。俺が暑いの嫌いなの知ってんだろーがっ!!!
 会ったらボコボコにしてやるからなっ!!
 腹の中で散々文句を言いながらも。
 俺はずっと走り続ける。
 焦って焦って走る。色々入ったカバンが重い。
 この距離だ。こんな、普通の車すら滅多に通らないような場所で、いつ来るか分からないタクシー待ってるより、走った方がずっと早く診療所に戻れるはず。
 とにかく擁護のところに少しでも早く戻らなくっちゃ意味がない。
 『後は擁護に案内させる…』
 出掛けてしまう可能性もある以上、一刻でも早く診療所まで戻らなくちゃならない。
 「はぁっはぁっはぁっ……っ…ぁっ…」
 段々フォームが無茶苦茶になって行く。苦しくて肺が破けそうな位痛くなってくる。
 それでも。俺は走り続けた。
 真直ぐ正面を睨み付け、肺で、全身で、激しく呼吸を繰り返す。フォームなんて滅茶苦茶で、スニーカーがバタバタと物凄い足音を立てている。足の裏が痛ぇ。咽も痛ぇ。
 強い日射しのせいで景色の全部がはっきりしている。水田と山の緑が目に痛い。
 こんなに必死で走ったのはもしかしたら生まれて初めてかもしれなかった。

 冗談抜きで死ぬほど急いで、診療所の曲り角まで走り続けた。
 一度も足を止めなかったのに気がついたのは、随分後のことだった。

 

 破裂しそうな心臓を落ち着かせる余裕もない。
 隠れる場所を目掛けて最後のダッシュ。
 走りながら応接室のカーテンが閉まっているのを確認し診療所の駐車場まで一気に走り込み、一つだけ屋根がついている場所に止めてある車の運転席のドアのところにしゃがみ込んだ。
 荒い息を整え、カバンの中からさしがね定規を取り出し
 「…さて…と…出来っかな……」
 『毒を食らわば皿まで』的覚悟で定規を握り締めた。
 狙うのは擁護の車のトランクの中。
 そう簡単には見付からなくて、上手くいけば擁護に気付かれないまま一緒に移動も出来る場所だ。
 ま、ウソップの受け売りだけどね。
 この島に来る時に、飲み友達のウソップから車を借りた。このウソップは一癖も二癖もある男で、ニコニコしながら結構手癖が悪い。
 例えば大阪の道頓堀には、ウソップの盗んだバイクが二台放り込まれてて、大掃除を伝えるニュースでその一台がまさに釣り上げられる瞬間が放映されたとか。その近隣の交番のお巡りには、ウソップの名前を出すだけで『あ〜あの子ね』と、言われてしまうとか。梅雨の時期に友人のバイクのシートをカッターで切って、スポンジ部分でカイワレを栽培したとか。
 そんな可愛いものから、百円パーキングで無料駐車をする方法やら、五秒で車の鍵を開けてしまう方法から、キー無しでエンジンをスタートさせる方法まで熟知していて、なおかつ実践したこともあるとかないとか。
 あいつのことだから、ある程度話をデカくしてる部分もあるとは思うけど、ウソップの名誉のために言っておくが、万引きだの強盗だの詐欺なんていうのは、俺が知ってる限りじゃやってるところは見たことないし、警察に捕まったこともない。
 実はホントはすげー良い奴で、ナチュラルにおばあさんをおんぶして信号を渡っちゃうような性格の持ち主だ。因に乗ってる車は五年ローンでコツコツきちんと支払いしている。バイト先はコンビニの深夜枠。
 「…さて…と…」
 車の窓枠の隙間からさしがね定規を滑り込ませる。ウソップの話ではドアロックの下部の先端部分にさしがね定規の先を引っ掛けて、そのまま引き上げれば簡単にロックが外れるって話しだ。
 『ほら、な。コツを掴めばものの五秒でオッケーよ』
 自分の車で実戦してみせて、ホントに五秒で開けていた。
 …まさか自分でやる日が来るとは思わなかったぜ……。
 「…つっても…今一つ感覚が……分かんねぇし…っ…」
 こんなんだったらもっと詳しく聞いとけば良かったぜ。
 「クッソー…ッ…!!」
 擁護が来たらアウトだ。こんな犯罪じみた行為、警察に通報されても文句は言えない。勝ち目もない。つか、連行されてる場合じゃないし。
 失敗したら多分ゾロにはもう会えない。
 「…冗談じゃない…っ」
 気分ばっかりがやたらと焦る。
 背後を気にしながらガチャガチャと五分ばかりやっていると、何の拍子かさしがね定規の先端に抵抗を感じた。
 「これか?」
 さしがね定規を掴んだ両手に力が入る。息を詰めて、ゆっくり垂直に引っ張る。
 「……くっ…」
 ガチャッ…。
 手応えと共にドアロックが外れた。
 よしっ!!
 思わずガッツポーズを取る。急いでドアを開きトランクルームをあける。
 ボフン。
 手応えと共にトランクが上がった。
 妙にドキドキした。車上荒らしの気分ってこんな感じかと思った。
 ドアを閉じる時に後部座席の足下に大きなケースが二つ、がっちりと固定されているのが見えた。
 小走りに車の後方に回り込み、トランクルームに潜り込む。良かった。思ったより広い。
 急いでトランク開閉レバーのワイヤーを探す。
 「……これかな?」
 ワイヤーなんて言ったら、もっと細いのかと思ってたけど、想像以上に太くて固い。俺の小指ぐらいの太さぐらいあった。
 掴んで運転席側に向かって動かすと、トランクルームの開閉部分の金具が連動してパカパカ動いた。
 これも、ついでにってウソップから教えてもらった。
 トランクルームの中から脱出する方法。
 最後に素早く辺りを見回して、トランクルームに入り込んだ。
 手を伸ばして慎重にドアを引っ張る。
 一瞬(開かなかったら…)なんて思いかけたんで、最後は一気に引っ張って閉めた。
 途端、真っ暗な密室に変わった。
 そろそろと手を伸ばしてワイヤーを探る。
 「…んっ!!」
 ボフンッ。
 ヤるじゃんウソップ。
 開いた隙間から見えた診療所の城壁を眺めながら、今度は安心して力一杯ドアを閉めた。
 

 なるだけ楽な姿勢を探して身体をリラックスさせる。
 トランクルームの隅に入っていた毛布が暑いんで、足で蹴って小さくする。
 ごそごそしてたら、後方座席側に、何やら動く場所を見付けた。
 押したら倒れて、光が差し込んで来た。
 ああ、後部座席のひじ掛けの部分だ。この車、長モノが入れられるトランク一体型なんだ。良かった、これで最悪の場合トランクルームに冷気が入れられる。
 冷房無しの真夏のトランクルームはヤバそうだもんな。
 先刻走ったから、体温上がってて余計に暑いし。
 カバンの中から水と熱冷ましのシートと水を取り出す。額の汗を手の甲で拭ってから水で少し洗ってシャツでゴシゴシと脂汚れを擦り落とす。袋の中から一枚だけ取り出して張り付けた後、ペットボトルの水を一口飲んだ。
 腹ごしらえは…後でも良いか。
 「よしっ」
 後は擁護が動くのを待つだけだ。

 ……………………………。
 いけねぇっ!!!
 暗闇に慣れて、待つのに飽きて来た頃、運転席のドアの鍵を掛け忘れたのに気がついた。
 やっべぇ……荷物に気ィ取られてた。
 やべぇ…ああ…っ…やべぇ…っ…。
 「…参ったなぁ」
 急いで鍵掛けに行くか……でも、もういつ来てもおかしくないし……。
 なんてうだうだ悩んで五分が過ぎる。
 んーだよっ。さっさと鍵掛けに行きゃぁよかった。
 でも次の五分間の間に来ないとも限らねーし……。
 見付かったら、ここまでの苦労も何も水の泡だ。
 くっそー…出るに出れねー。
 見付かりゃ、即通報だろうし……。
 どーすっかな…。
 気が付くと更にまた五分が過ぎていた。
 ………あーっ、アホかっ俺はっ。
 出るぞっ!!出るっ!!!速攻やれば、一分も掛からねーって。
 意を決してワイヤーに手を掛けて…一気に引いてトランクを開けようとした瞬間ーーー砂利を踏む、規則的な足音が耳に入って来た。
 (うわっ!!来たっっ!!)
 ああ…っ…バカだ。さっさとやっときゃぁ良かった…。
 …開けられたら、どうする?
 カバンの中から果物ナイフを取り出す。
 「……あれ?」
 間近に擁護の声が聞こえる。
 ドアの鍵に気付いたらしい。
 ガチャッ。
 ドアが開かれる。
(うわわわっっっっ……)
 緊張が一気に高まる。
 呼吸をするのもヤバい気がする。
 これ以上は無理ってぐらいに身体を縮める。
 ぎゅーっっ…と目を閉じて、あ、これじゃ開けられた時に直ぐに反応出来ねーしとか思って今度は暗闇の中で目を皿のようにして見開く。
 (あ、でも暗闇に慣れてるし、外の光見たら目が眩んで逆効果か?)
 とか思い直して今度は目を薄ーく開いてナイフを構え直してみたりする。
 端から見たらかなりアホだと自分でも思った。
 (開けられるか…?開けられるか…?)
 トランクルームの中で、耳に全神経を集中させながら力一杯果物ナイフを握り締める。
 もしもこの扉が開いたら…。
 カージャック(あるのか?あるのか?こんな言葉)だ。
 擁護の喉仏にナイフを突き付けて、ゾロのところに連れてくように脅してやる…っ。
 こんな小さなナイフがどれだけの効力あるか分かんねぇけど…むしろメスとかで対抗されたらかなり分が悪いけど…悩んでる場合じゃ無い。
 今、警察に掴まってる訳にはいかないんだ。
 ……俺に出来るか?
 「…出来なきゃどうするよ」
 ゾロに会いたいんなら切り抜けるしか、無い。
 何が何でもやってやる…っ。
 覚悟を決めて、薄目扉を睨み付けた。
 息をひそめて開けられるのを待った。
 緊張のあまりに吐きそうになった。
 絶対犯罪者には向かねぇと思った。
 いやいやっ弱気になってんじゃもーよっっと、自分を何度も励ました。
 バタンッ。
 (うわわわっっっっっ!!!)
 飛び上がりそうなくらいビビる。
 更にナイフを持つ手に力が入る。情けないくらいに手が震えていた。
 ブルルルン。
 「………え?」
 エンジンが掛かり、車が振動を始めた。え?おい、ジジイ、鍵開いてたんだぞ。ちょっとは警戒しなくて良いのかよ?
 ゆっくりと動き出す。……気にならねぇのか?…や、ならねぇ方が正直ありがたいんだけどさ。
 砂利の振動が直接伝わる。
 砂利をバキバキ踏み付けるタイヤの音が間近に聞こえる。
 「…………」
 声を押し殺して、全身で車の動きに神経を注ぐ。
 ウインカーの音。
 一旦止まる車。
 また、ゆっくりと動きだし、片方に重圧が掛かる。「むぎゅっ」…頭の方に曲がったから…えー…どっちだ…?…………左折だな。…うん。左だ。先刻ウソップの車を止めに行った方角だ。ゾロの実家もこっちの方角だから…間違いないな。擁護はゾロに会いに行く。
 希望的観測込みの確信で。
 砂利道の振動から、もっと滑らかな、アスファルトの上の振動に変わる。
 でも。
 俺はナイフを握った手の力を抜くことが出来ない。
 (だ……大丈夫なのか?)
 状況が掴めなくて身体の力を抜くことが出来ない。
 このまま交番に向かわれてるとか…?
 全身を強張らせて緊張しながらガタガタと車の振動に揺さぶられる。
 ナイフを握り締めた手が車の振動のせいか、自分のせいか全然分からなかった。
 五分。十分。十五分……。
 車の停まる気配はない。
 (…大丈夫か…?)
 それでも警戒を解かずに五分…十分…。
 (…もう大丈夫か?)
 車は一向に停まる気配もない。
 更に十分。
 「…ふぅ…っ…」
 自分に『大丈夫。大丈夫だから』と言い聞かせながら、ようやく俺は身体の力を抜いた。
 一先ずは潜入成功(?)だ(…と、思う)。
 ガチガチになった身体の緊張をゆっくり解く。肩が無茶苦茶凝っていた。握った果物ナイフも暫く躊躇った後にカバンにしまった。関節ががっちり固くなって、ギシギシ音を立てる。
 暫くしたらクーラーの冷気らしいものが僅かに流れ込んで来ていたのに気が付いた。
 ラッキーだ。暑さも何とか凌げそうだ。
 車は走る。走る。
 多分きっと、ゾロのところへ。
 もうじき会える。
 ようやく実感出来て来た。
 嬉しくて、暗闇の中で少し笑った。
 この何日間のことを思い返す。まるで悪夢だ。一人にされたって思った時のあの狂いそうになってしまった感覚がまだ身体のどこかに残ったままだ。
 もう、あんな思いはしたくない。
 寂しいとか思うのも絶対に嫌だ。
 「…ゾロ…」
 音にならないようにしながら口の中であいつの名前を呼ぶ。
 ゾロ。
 ゾロ、首根っこ洗って待ってろよ。
 ボコボコになるまでブン殴って、土下座で謝らせて。
 そうだ。それからお前に抱き着いてやる。
 親戚の目なんてクソ食らえだ。
 血の雨でも、キスの雨でも、何でもかんでも降らせてやる。
 俺には権利があるんだからな。
 言っとくけどな、お前を好きにさせたのは、俺じゃなくってお前なんだからな。
 責任取れ。
 一生束縛するって約束、守れ。
 男だろうがっ。
 今更、一人になれねぇよ。バカ。

 

 トランクの中は狭くて暗くて暑いけど、我慢出来ないところじゃなかった。
 会えると思ったら、気持ちの緊張が解けていくのを感じた。
 大きなあくびか出始める。
 「………眠みぃ…」
 そう言えば、もう丸一日以上眠ってなかった。
 ゾロの家までは車で二時間の道程だ。
 多分まだ着くまでには一時間以上掛かると思う。
 休んでおくか……。
 足の痺れない体勢を探して、カバンをまくら代わりにして。
 俺は間もなく、眠りに落ちた。

 続く

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