【窓越しの掃除屋】

8

 

 ベンにいつもの部屋に通された。
 『若は、今取り込んでおりますので』
 って、ドスの効いた丁寧語で説明される。
 「取込み中…ね」
 どーせ、最中ってところだろーけど。
 ヤクザの若頭って肩書きなんか持ってたら、それだけで敬遠されるモンかと思っていたけど、実際は全然違う。
 シャンクスの周りには常に女性が絶えない。
 『シャンクスの彼女』って言ったら、それこそここ界隈の良いお姉さんは全員『彼女』に違いない。
 呼ばれて来ても、たまにこうして突然尋ねても、屋敷にいる時は絶対にセックスの最中だし。
 あんな…見た目天然系のタンポポみたいな(ま、髪の毛は真っ赤だけどね)男のくせに、ヤることはちゃんとヤッてる。
 終わった後のお姉さん達は、皆がみんな、すごく幸せそうな顔してるんだ。

 血をね、残したいのかもしれないな。

 あんまり誰とでもヤリまくるから、前に一度シャンクスに理由を聞いた。
 そしたら、穏やかな顔でそう言った。

 いつ死ぬか分からない身の上だ。一緒になりたい奴がいたって、俺はその女を泣かせることしか出来ないからな。 この世界じゃ、『きれいごと』は通用しない。
 愛した女に、ドタマ打ち抜かれた惨めな姿はみせたくないしな。
 ヘマやって、東京湾に沈められた日には、デッカイ棺桶に、小指一本だけで葬式だ。
 俺はまだまだ死にたくないんでな。
 『弱み』は少ない方が良い。
 だからかもな。
 出来るだけ自分に関係ない女に、俺の子供産ませたいんだよ。
 こんな汚れていても、血を残したいのかもしれないな。

 柔らかくて飄々としていて…でも目だけはしっかりと何かを見据えた力強さで……俺には出来ない大人の表情を浮かべて…シャンクスは話して、微笑った。

 仲間を大切にするシャンクス。
 昔、自分の片腕を犠牲にしてまで、大切な仲間を守ったシャンクス。
 ゼフとは全然違うけど、とても良く似た…シャンクス。
 シャンクスは、自分の側にいる全員を大切にして、幸せにさせてくれる。
 どこまでも暗くて深くて残酷だと恐れられている赤龍会若頭のもう一つの姿。
 凄いな…って純粋に思える。
 だから尊敬出来るし、大人だけれど、唯一信じることが出来る。
 身体を重ねることも、出来る。


 「ねぇベン」
 「何でしょう?」
 「シャンクスの所に行っても良い?」
 「…今ですか?」
 「うん」
 出されたお茶を飲みながらベンを見上げる。
 「ね、良い?」
 「…しかし若は取込み中でして…」
 困ったように口籠るベンに、俺は笑って言ってやった。
 「セックスの最中なんでしょ?良いよ、俺、別に気にしないから」
 とまどったようにベンが俺を見る。
 「俺、シャンクスに会いたい」
 俺、会って聞きたいことがあるんだ。
 俺……分からないことが会った時に聞くことが出来る大人って、シャンクスしかいないんだ。
 分からないことがあるんだよ。
 ここ数日、そればっかり考えてる。
 自分じゃどうにも出来なくて、でもシャンクスなら俺が納得出来るような答えを教えてくれるような気がするんだよ。
 胸の辺りがぐるぐる熱くて気持ち悪いんだ。
 もう待てない。
 「ね、シャンクス…どの部屋にいるの?」
 とうとうベンが(まったく…)って顔して溜め息を吐いた。
 「寝室です。ご案内…しなくても分かりますね?」
 「うん」
 俺は、ありがとう、と、礼を言って立ち上がった。
 「サンジさん」
 「うん?」
 「何かあったんですか?」
 「なんで?」
 子供を見るような目で俺を見ながらベンが続けた。
 「顔に書いてあります」
 急いでポーカーフェースをしてみたけれど、効果の程は分からなかった。





 「…んっ…あんっ……」
 「…………」
 廊下の突き当たりを右に曲がって一番奥まで行くと、シャンクスの寝室のドアにぶつかる。
 ドアの前に立つ前から、ドアの向こうから喘ぎ声が聞こえてきた。
 「ああっ……シャンクス……」
 声だけでどんなに相手が感じているかが分かった。
 暫くためらって、それから小さくドアをノックした。
 「……誰だ?」
 少しだけ息の上がったシャンクスの声が聞こえた。
 「……俺…」
 「サンジ?」
 「……うん」
 ドアに額をくっつけるようにして返事をした。
 「…入れて?」
 幸せそうに喘いでいる女の人が羨ましい。
 あのさ、シャンクス。俺…最近ロクなセックスしてないんだよ。
 イライラするし、もやもやするし。
 全然ちっとも意識の外に追い出せないし。
 気になるし。
 訳分かんないし。
 でも、怖いし。
 さみしいし。
 なんかさ…どうもゾロと現場の帰り道一緒らしいんだ。
 同じ駅に向かってるしさ。
 朝とかバッタリ出くわしたら、俺どうすれば良い?
 アイツ…なんかおかしいんだよ。
 怖ぇし。
 ずっと緊張しちゃってるからさ、なんだか凄く疲れるんだよ。
 一人でいるのも辛いんだ。
 でも、だからって、側にいてくれる人もいなくてさ。
 急にアンタのこと思い出しちゃったんだ。
 そしたらもうどうしようもなくてさ。
 タクシー乗って来ちゃったよ……。
 「…どうした?なんかあったのか?」
 「だあれ?」
 部屋の中からシャンクスの『彼女』が俺に声を掛けてきた。
 「サンジ」
 「サンジ君?どうしたの?」
 「…ごめんね。邪魔しちゃって」
 「うふふ…良いのよ……ね、どうしたの?」
 ……良いな…ドアの向こうは暖かそうだ……。
 「…………」
 何も言えなくなってしまった。
 ネコみたいにドアに頭を擦り付ける。
 泣きそうなくらい、人肌が恋しくなった。
 ……ああ…やっぱり俺、おかしいよ……。
 ストレスたまってンだな……きっと……。
 黙ってじっとしていたら、女の人が優しく言った。
 「………さみしいの?」
 「…………………うん……」
 ギシッ…と、ベッドが大きくきしんだ。
 「いいよ。サンジ、おいで」
 シャンクスが俺を呼んだ。
 「……入っても良い?」
 ぼそりと呟く。
 そしたら中で女の人が優しく言った。
 「……良いわよ。いらっしゃい…」
 俺は、甘えるような気分の中で、ドアノブをキュ…と、掴んでゆっくり回した。
 ドアのカギは掛けられていなかった。

 キングサイズのベッドの上で、シャンクスと知らない女の人が身体を起こして俺が入って来るのを笑顔で迎え入れてくれた。
 二人とも何も着ていなくて、恥ずかしいのは二人の方に違いなのに、俺は耳まで真っ赤になって俯いた。






 

 今夜のシャンクスの『彼女』は、女優みたいに派手で綺麗な人だった。
 胸まで届く長い髪は大きくカールしていて、もうそれだけで華やかに見える。
 嘘みたいに括れた細い腰に、モモみたいにふっくらとしたお尻。胸は下着や服で隠しているのが勿体無いくらい綺麗な形をしていて、その上どうしようもないくらい嫌らしく誘う肉付きをしてる。余韻なのか、乳首がピンと立っていた。
 化粧なんかしなくても最高に整った造りの顔は、セックスの期待に蕩け始めて、それだけでオナりたくなるくらいだ。
 なにより彼女はとてもしあわせそうで素敵だった。
 「ごめんね…邪魔しちゃって」
 「ううん良いのよ。…それに、邪魔なんかしてないわ。このまま続けられるもの……ねぇ…シャンクス…」
 濡れた厚い唇が緩やかに微笑む。
 「ああ…そうだわ……。ねぇ…サンジ君って言ったかしら…?」
 「うん。そう」
 「一緒に気持ち良いことしない?」
 ズキンッ!…と、アソコが疼いた。
 「ね、良いでしょ…?」
 「ああ」
 片腕で、がっしりと彼女を抱き締めながらシャンクスが頷いた。
 「サンジ、おいで」
 頷く自分が、まるで子供みたいだと、頭のどこかで遠く思った。


 「んっ…んっ…あふ…ん…」
 二人で彼女を昇天させる。
 シャンクスは唇と耳と首筋と乳首を。
 俺は太股の付け根と性器を。
 彼女の性器は色まで綺麗なピンク色で、穴の周りのビラビラだけがほんの少し黒ずんでいるだけだった。
 少し塩っぱい愛液をヌルヌルと味わいながら性器全体を口に含む。
 「あん…っ」
 下唇で穴の入り口を刺激しながら、クリトリスの下側のグミのような色と食感の芯の部分を下でざらざらと舐めあげる。同時に上唇で芯に覆い被さる薄皮を舌の動きとリンクさせてマッサージするみたいに撫で付ける。
 「あんっ…!…それっ……気持ち良い…」
 「俺か?サンジか?」
 「どっちもっ……すごく……気持ち良い……」
 彼女の独特の性器の味を楽しみながらシャンクスを見上げると、嬉しそうに笑う彼女に、何度も何度もキスを繰り返していた。
 彼女も、優しくシャンクスに口付ける。
 引き裂かれた腕の傷にも、躊躇うことなく優しくキスを
落とす。
 愛しあっているのが分かる。
 羨ましいなとかって思うかと思ったら、そんなことは全然なくって、気が付いたら自分まで嬉しい気持ちになっていた。
 口の中でクリトリスの芯の部分が膨らみ始め、堅くなって、ビクビクと痙攣し出した。
 「あーっ、あーっ!!」
 彼女の喘ぎも華僑に入る。
 首を縦に振りながら、舌の動きを更に速める。
 太股が快感に耐え切れずに跳ね上がるのは嬉しい反面、舐め辛くさせられたけど、感じているを邪魔したく無かった。
 さわさわと宥めるように優しく摩って、舌は激しく舐め回す。
 前技を楽しむなんて、前はいつだか思い出せない。
 綺麗な裸を全身硬直させて、愛撫だけでイッた彼女はものすごく可愛らしかった。
 「ああああ……ね……お願い…挿れて……」
 ビショビショに濡れたオマンコを指で開いて彼女が誘ってきた。
 俺も興奮してきて勃起している。
 シャンクスを見上げたら、
 「ほら、やってやりな」
 と、俺の頭をさらりと撫でた。
 「んっ」
 「ああっ!」
 入り口付近にすごく狭い場所があって、底をカリが通り抜ける時は流石に痛かったけれど、そこを過ぎたら勝手にどんどんと奥に飲み込んでいくポイントにぶつかった。
 ヌラヌラしていて、グチャグチャに濡れてて出し入れする度『ジュポジュポ』とエロい音を上げた。
 彼女はシャンクスに乳首を吸われながら頭を仰け反らせ全身で快感に震えていた。
 穴がブワァッッとオレのモノを圧迫して来る。
 「サンジ、この子は凄く良い形をしてるんだ。どう?」
 シャンクスの言葉にオレはピストン運動を早めながら頷いた。
 「……あっ!ああっ!!サンジ君ッ……イッ……イクッ……!!」
 必死で腰を使った。
 深く深くイかせてあげたい。
 そう、思った。

 彼女が絶頂を迎える。
 ヒクヒクと身体を痙攣させて喜びを味わっている。
 その顔を見て、思わず俺もイッてしまった。
 「はぁっ…はぁっ……」
 彼女が荒い息のまま、大きく股を開いた。
 「ねぇ……アタシ…今……すごく気持ち良いの……ね…お願い…もう一回舐めて……」
 「いいよ」
 跪いて顔を埋める…と、彼女が
 「シャンクス…」
 と、シャンクスの名前を呼んだ。
 「彼も喜ばせてあげて…」
 シャンクスの大きな左手が俺の腰に回り、グイッと、ケツを引き上げた。
 「んっ」
 口には彼女の性器。
 咄嗟に何も言えずにいると、シャンクスの手が優しく俺のケツを撫で始めた。
 「んんっ…んっ…」
 くすぐったくて気持ちよい。
 思わずケツを突き出すと、スル…と、手が俺のペニスを柔らかく掴む。
 「んぁ…っ…」
 顔を上げそうになった俺に彼女が「ダメ…もっと舐めて…」と、両手で性器に押し付けかえす。
 反射的に舌を動かすと、彼女の身体が反応し、
 「あんっ…あっ…」
 と、喘ぎを漏らす。
 俺はと言えば、シャンクスの指の動きに翻弄されて、無意識にケツが快感を求めて動き始める。
 「気持ち良いか」
 シャンクスの言葉に、俺達二人は頷いた。
 「サンジ君が感じているの…舌の動きで良く分かるわよ……ね…シャンクス…もっと喜ばせてあげて頂戴な」
 彼女がしっかりと俺の頭を掴み、性器から口が逃げ出さないように固定すると、それが合図だったかのように、シャンスが、俺のケツにキスを落とした。
 感じても自分じゃあげられない喘ぎの代わりに、舌を懸命に動かす。溢れ出す愛液で、顔全体がヌルヌルと濡れていく。彼女が感じている俺の快感そのままに、喘ぎの声を高らかにあげる。
 「ああっ!!あああっっ!!」
 ケツの穴にもキスを落とされる。
 彼女が喘ぐ。
 ケツの穴に舌が差し込まれる。
 彼女が叫ぶ。
 ケツの穴に、シャンクスのペニスがあてがわれる。
 彼女が息をつめる。
 「んんっっ!!」
 激しく深く一つに繋がる。
 彼女が素早く身体の体制を変えて、シックスナインの形を取った。
 シャンクスの手が俺のペニスから離れて、代わりに彼女の口が銜える。
 「うんっ!」
 必死で彼女の性器を銜える。
 シャンクスは俺が逃げられないように腰に手を添え上から体重を掛ける。
 「んっ!んんっ!!」
 前も後ろも攻めあげられる。
 「んん……んあっっ!!」
 とうとう俺は、彼女の性器から口を離して喘いでしまった。
 二人が攻める。
 俺は翻弄されて喘ぎ続ける。
 激しいセックス。
 でも、とても優しいセックス……。
 途中、何度も…………


 ゾロに抱き締められた時の…あの強い腕を思い出していた。




 不思議と思い出しながら……俺は…とても……幸せだった………。









 俺が達して、そのまま彼女にインサートしてシャンクスは彼女もイかせ、最後に自分もイッた。
 『はぁ…っ…はぁっ……はあっ……』
 荒い息だけが部屋の中に聞こえている。
 二人は俺を真ん中にして、左右からそっと抱き締めてくれた。
 本当は知っちゃいけない心地良さだったけど……今だけは抱き締められている感覚に身を委ねた。


 「…サンジ……」
 「ん…?」
 シャンクスが、俺の髪を撫でながら声を掛ける。
 「俺に話があるんだろう?言ってみな」
 「……俺さ…この前現場で左官屋にからかわれて……」
 シャンクスは黙って俺の髪を撫でながら、俺の話を聞いてくれた。
 言葉を探して、でも強姦された事実はどう言ったところで辛い事実で。記憶に怯えて何度も身体を強ばらせる。
 その度、二人は優しく俺に触れてくれた。
 深呼吸を繰り返す。
 話に来たんだ。
 そう、何度も心の中で繰り返す。
 暖かいベッドの中で、子供みたいにたどたどしく。
 それでも、一生懸命に、自分の言葉でこの数週間のことを二人に話した。
 そして、最後にゾロのことも。
 「………だから…すごく…怖いんだ」
 小さく身体が震えていた。
 二人は、話が終わっても、まだ髪を撫でてくれていた。

 「……で、サンジはそのゾロって男のこと、どう思ってる?」
 「…………分からない……」
 「…気にはなるのよね?」
 「……う…ん」
 「………なら、好きなのかもしれないわね」
 「誰が?」
 「サンジ君が」
 「コラ…アルビダ、答えはサンジが探すモンだ。俺達がどうこう言うモンじゃないぞ」
 「…そう?…じゃあ…ごめんなさいね…」
 彼女が、優しく俺の髪を撫でる。


 


 何が、変わった訳じゃない。
 繰り返される毎日。
 晴海オーシャンシティの現場はいつもと変わらない毎日が続いている。
 俺は相変わらずゾロを警戒して、ゾロは相変わらず窓の外で足場をばらす。
 話が増えた訳でも無い。
 存在が近くになった訳でも無い。
 ただ。
 確実に、ゾロを意識している自分がいるという事実に気付いた。

 ダメだ。アイツは関わらない方が良い。
 アイツの背負ったものを知らないままが良いんだ。

 このままもくもくと部屋の掃除だけを続けていれば、これ以上関わらないまま終わりに出来る。
 終わりに出来る。
 出来る。
 だから。



 ……………なのに………。


 気が付けば、窓越しにゾロを探す自分が、いる。
 




 続く。

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