「見聞録」
9
8階の部屋内。現場も後半に差し掛かり、最上階ではあるものの、部屋間仕切りまでは終了している。谷田はコウイチを玄関から一番離れたベランダ側の洋室まで引きずり込んだ。
「お前、ホントにここで良いのか?」
コウイチは部屋に搬入されていたボード屋の材料の中から、床に敷けそうな汚れていない石膏ボードを一枚拝借してしまうと、
「だって、もうオレ勃っちゃったもんね」
などと恥ずかしがりもせずに言い、埃をたてないように気を付けながら床に敷いている。
一度その気になったコウイチは何がなんでも最後までしなければ気がすまないタイプである。谷田は密かにこれも職人気質だからか・・?・・と、思っている。
「ったく、おまえはよー・・・」
とは言いながらも、先刻の誘うようなコウイチの自慰シーンを見せられている谷田も、少なからず体が熱くなってきている。破損して処分になっている風呂場用の硬質スチロールの一枚板を部屋に運び入れ、コウイチが敷いたボードの下に敷いた。
「ホントに、他の職人が来ても止めねぇからな」
「おっ、いーの見付けたじゃんvv」
スチロール素材は断熱になる。
コンクリートの床は冷たい上に不衛生だ。掃除をしたところで四角い部屋を丸く掃くようなもので、砂や埃、小石や釘やネジなどが至る所に散らばっている。痛い思いをしたくなければ、現場でのセックスは出来る限り新しい材料の上で行う方が良い。現場で何度もセックスをしている二人は慣れたもので、抱き合う前の場所の確保は怠らない。ウォークインクローゼットで立ったままするのもさせるのも、余程のことがない限りは二人はしない。
ベニヤ板サイズの材料は色々あるがそれのどれもが床に敷く素材になるわけではない。ベニヤ板などは表面がささくれだっているので、皮膚に刺のように木片が突き刺さり、痛い上に抜くのが厄介であり、また無駄な時間のロスとなるため、他の職人に見付かる率が高くなる。片方の面を滑らかに加工した化粧ベニヤや、壁材である石膏ボードなどはその点では最高の素材だ。また谷田が持ってきた硬質スチロールは、現場の職人が休憩時などに座る素材としては暖かく適度に柔らかく、また非常に軽いため、盗難が絶えない程の人気素材だ。(無論、破損してしまった不良品を拾う分には問題ないが、真新しいものを盗めば立派な犯罪。組から散々叱られた上に発注・搬入・支払いまでさせられる羽目になる)この上ならば、真冬に部屋内であれば横になって眠ってしまえる程、熱を奪われにくく、また暖かい。冬場のセックスには欠かせないアイテムの一つである。
谷田は更に自分の上着を脱ぎ、その下のシャツを脱いでボードの上に広げた。
せめて肌が露出する部分だけでも・・との気持ちからだろう。
コウイチはそんなさり気ない谷田の優しさに嬉しくなる。
「寒くない?」
抱き着く口実をつくり、ぴったりと体を密着させると、唇を重ねた。
「今更だろ」
谷田は、キスの合間にそう言うと、自分の中に深くしっかりと抱き込み先導権を一気に奪った。きつく吸い上げ、舌を絡める。コウイチの緩められているズボンの中に左手を差し込みペニスを掴んだ。瞬間コウイチの舌の動きが止まり、体が強ばる。
「ユウ、手が冷め・・・」
最後まで言わせず、谷田は掴んだペニスを揉み扱き始めた。
「んんっ・・・ユウ・・んっ・・いい・・」
もそもそと、体を動かしながらコウイチは自らズボンと下着を脱ぐ。まだ直に触れられていないペニスが露になる。見なれているその形は谷田にとってはとても旨そうなもの。谷田は今は直には触れない手の代わりに、清潔な口でぬるり・・・と、銜えた。
「あうっ・・んっっ・・はあ・・・っん・・・」
舌で皮の下の堅い肉まで刺激が伝わるように舐め上げる。
手で扱くように、唇を出来る限り窄めて頭ごと上下し出し入を繰り返す。亀頭は歯で軽く噛み、その後舌の裏まで使いながら柔らかく舐める。コウイチの体が小刻みに震え出す。裏側の襞の部分は襞全体が動くように強めに舌で扱くように。同時に陰嚢を揉んだり尻を撫でたり肛門に指を入れたりしたいところだが、洗っていない手でやることも出来ず、ならばせめてと家でやるよりも、丁寧にかつしつこく、谷田はペニスを刺激し続けた。
うっとりとした表情で、コウイチは谷田の愛撫を受ける。もしもその表情を見たら、全く男に興味のない男ですらその気になってしまうかもしれない。女性とはまた全く違った官能的な表情である。谷田に至っては簡単に落とされてしまう表情。その顔で誘われれば、触られなくとも爆発寸前まで連れていかれてしまいそうな色気である。だが、幸か不幸か谷田はその濡れた表情をコウイチの股間に顔を埋めているために見ることは出来ない。「止めないぞ」と、言ってはみたものの、本当に目撃されてしまっては現場の職人達に何を言われるか分からない。一先ず溜まってしまったものを抜いて落ち着かせてやろうと谷田は考えていた。自分のものも既にズボンの中で痛い程に頭を擡げてしまってはいるが、これは後で昼休みにでもトイレで抜いてセックスはしないでおくつもりだった。そんな谷田の考えなどコウイチは気付く訳も余裕もなく、谷田の髪の毛を掴み、自分の両足を広げ、より深く快感を求めて腰を突き出した。取り付けていない玄関のドアが一応気になるのか、今日は極力声を出さないようにと咽の奥で掠れた喘ぎ声をくり返すが、それでも敏感なところを攻められれば、
「あうっっ!!」
と、高く声が響いた。
「・・・コウイチ・声、デカイ・・」
谷田がペニスを口から抜けば、
「バカッッ・・止めんなぁ・・」
と、ねだるような声を出す。
「聞こえても、知らねぇぞ」
昼前の現場。姿は見えなくとも、A棟内部は職人だらけだ。
「んじや、こーする」
快感に潤んだ目が子供っぽく笑う。そのままコウイチは両手で自分の口を塞いだ。
合間に見せる子供らしさは最中には全くそぐわないものの、谷田は思わず心を奪われた。
コウイチは『弱い男』だと誤解の受けやすい男である。整った女性的な顔のつくりや、パッと見た目の線の細さは現場では何のメリットにもならない。からかわれたり、邪魔をされるのは日常茶飯事である。だがしかし。勘違いするするのは始めのうちだけで、現場が中層階から高層階へと進む頃には、一目置かれる『危険な男』と恐れられるようになる。どんな些細な喧嘩でも、いちいち買っては暴れ出し、ほとんど全てに圧勝する。
一旦キレれば正気とは思えない程の狂暴性が一気に噴出する。現場で鍛えられた体力は半端なものではない。無論それは他のどの職種であり同じもので、現場の喧嘩は正視に耐えるものではない。殴るにしても蹴るにしても破壊力は凄まじいもので、実際コウイチも何人もの職人を病院に送り、また自分自身も肋骨を3本同時に叩き折られた経験がある。
しかし、コウイチの凶暴さは尋常ではない。男であるにも関わらず、全く彼は血を怖れない。自分の血でも、相手の血でも。単に売られて買った喧嘩は相手の戦意が喪失してしまえばそれで終わるが、万一自分の仕事を悪意で邪魔をされたのであれば、例えば相手の意識が失ってもコウイチは攻撃を決して止めない。
これはたとえ谷田が止めても決して腕を下ろすことはないのだ。
現場は簡単に命が落とせる危険な職種である。
だからこそ、職人は自分の仕事に誇りを持ち自身を持つ。
より完璧な仕事を目指すが故に争いは絶えない。
コウイチはある意味本当の職人である。
自分にも仕事にもプライドを持つ。
例えば自分の信念を貫くならば、親方でもある、父親にでも殴り掛かっていく。
しかし、もしも自分の非に気がつけば、内心涙が出る程悔しくとも、頭を下げることの出来る男である。
学生時代から変わらない、真っ直ぐなコウイチ。
気性の荒さばかりが先に立ち、例えば笑う時の子供らしさなど、ほとんど誰にも気が付かれずにいた。谷田は、そんなコウイチをおそらく誰よりも一番側で見つめ続けていた。
だからこそ、時折見せる子供らしさが大好きだった。
両手でしっかりと口を塞ぎ
『どーだっっ』
と、自慢げな顔をするコウイチがの子供らしさが、愛おしかった。
「あほう」
谷田は、どうにもくすぐったくなるような甘い気分に襲われて、コウイチの両太股の内側に両手をかけると大きく広げ、勃ち上がり先走りの汁を漏らし始めたペニスを全部、口に含めた。
リズムを速めて上下に扱いて吸い上げる。中のペニスは更に膨れる。
「あっ・・あっっ・・・あっ・・・」
また髪の毛を掴まれる感触。
(口、塞いでんじゃなかったのか?)
などと、思いつつも自分の与える刺激が絶えられないのかと嬉しくなってしまう谷田であった。
「あっ・・あーっ・・あっあっ・・・ユウ・・も・・っ・・イク・・・ッッ」
激しく腰を揺するコウイチを自分の体重と両手で押さえながら吸い上げる力を強くする。 動きを封じられたコウイチは、谷田の舌に一気に追い詰められ、全身が強ばるように力が入る。
「イ・・・ク・・ッッ!!!!」
直後、谷田の口の中に、激しい勢いで暖かい液体が流れ込んできた。ねっとりとした濃い精液を谷田は零すことなく飲み干した。
「・・・・はぁ・・はぁ・・・ユウ・・直ぐ入れられる?」
「時間ねぇって。もうじき昼だろう?」
コウイチが腕を伸ばして谷田の股間に触れる。
「っっ!!・・止めろって」
谷田の股間も大きく膨らみ、収まりつかなくなっていた。
「いーじゃん。入れてよ」
コウイチが谷田のズボンに両手をかける。
「バッ・・・いーってオレはッ」
「オレが良くないのッ」
素早く脱がされ押し倒される。
「もう昼だってっっ。岡野さんが呼びに来んだろーがっっ」
そのままコウイチが上に跨がりキスを奪う。
「・・・っ・・コウイチッッ」
「・・・ケツも欲しい」
「アホッッ!!だから下行って-----」
谷田も収まりがつかない程になっている。しかし本番までするには時間を取り過ぎてしまっている。いくら完全に立ち入り禁止とはなっていても、全員が守るとは限らない。現にボード屋の道具が入っているこの部屋。もうタイムリミット寸前のはず。
「オレはどっかで抜くからいいってっ」
「くれよ・・ユウ」
「・・・コウイチ・・・あっ・・コラッッ・・」
「んっっ・・・・ああ・・・」
谷田のペニスの先にコウイチの狭い入り口があたる。コウイチが喘ぎ、谷田は刺激に一瞬抵抗が止まる。その一瞬をついて、コウイチが自分の腰を深く落とした。
「・・・・オレ、ユウとするのケツの方が好き」
ゆっくりと腰を揺らせて自分の感じるところにぶつけながらコウイチは言った。
「・・・も・・ここもしてくんないと・・落ち着かねーもん・・ん・・だから・・ユウ」
そこまで言うと、目を瞑り、口を開き本格的に腰を揺らし始めた。
自分の上でコウイチが目を閉じ喘ぎながら腰をくねらせている。自分のペニスがコウイチの中で締め付けられる。自分にもうねるような快感の波が押し寄せてくる。
「・・・・・・っ・・」
思わず谷田が腰を揺するとコウイチが頭を仰け反らせ快感の悲鳴を上げた。
直ぐに気付いて両手を塞ぐ。腰の動きは次第に強くなっていく。感じている時の独特の頭の振り方。谷田もたまらずゆっくりと意識的に腰を突き上げる。コウイチは快感に全身で反応してくる。かろうじて押さえているだけの両手。揺れる身体。
「・・・ったく・・・っ・・」
谷田の我慢もそこまでだった。
インサートしたままで身体を捻りコウイチを自分の胸に倒れ込ませる。しっかりと抱き込み身体を反転させ自分の下にコウイチを引き込む。抜けかけたペニスを深くねじ込むように突き上げながら谷田は自分の上半身を起こして体勢を逆転させた。
「・・口、押さえてろよ」
素早くコウイチの手の指越しにキスをして、一気に強く腰を使った。
コウイチは必死で口を両手で塞ぎ、狂ったように腰を振った。
ぐったりと快感に浸りたがるコウイチにやっとの思いで下着とズボンを履かせたのと、ダウンライトを付け終わった岡野が、
「終わりました。合流します」
と、部屋に入ってきたのと、昼食を知らせる親方からの携帯電話の呼び出し音が鳴り響くのは、ほぼ同時であった。
「・・・あれ?コウイチさん、具合悪いんですか?」
「あ・・こいつ、幹線の準備で疲れたみたいっス」
多少無理のある言い訳に、幸いにして岡野は気付かず。
「お疲れ様です。だから部屋内で休んでたんですね。姿が見えないからどこに行ったかと思いましたよ」
「うん、寒かったからねぇ」
と、ごまかすコウイチに不思議そうに岡野が返した。
「じゃあ、窓閉めた方が良くないですか?」
匂いをごまかすためだとは流石に言えない二人であった。
つづく。 戻る 10へ TOPへ
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